9. 灯火が消えるころに

8/10
前へ
/141ページ
次へ
 八月も終わりに近づいた頃。暗い部屋に放ってあるスマホが光った。  普段は家族か藤春くん、あとは何度か月さんがメッセージをくれたけど、連絡を取り合う人はいない。花火大会以降は藤春くんとやり取りはないから、余計に誰だろうと不思議で。ベッドからのそりと起き上がり、ドクンと心臓が弾む。  ーーオルガ。  迷惑メールかと思った。【オルガ】なんて人は知らないし、きっと詐欺のメールだ。  読まないでゴミ箱へ捨てようとした時、またスマホが震えた。同じオルガという名前からだ。  続けて届くなんて、なんだか不気味だ。  もしかしたら、用事がある誰かが藤春くんに聞いて……そんなありもしない〝もしも〟に誘導されて、メールを開く。 「……なに、これ」 【青砥鶯祐と青砥茉礼は、家族で恋愛をしている。この写真を拡散されたくなければ、指定された場所に一人で来い】  そこには、脅すような文章と画像が貼られていた。花火大会でーー私が鶯くんに抱き抱えられているものと、キスしているものもあった。  誰がこんなこと……。名前も知っている。きっと、身近な人の仕業だろう。  一番に思い浮かんだのは、三嶋さんたちだった。彼女たちは、私を煙たがっていたし、藤春くんが男子だと知った瞬間から、顔つきが変わった。  でも、鶯くんのことは知らないはず。一体、誰が……。  ドアがノックされ、鶯くんが入ってきた。とっさに布団の中へスマホを隠す。鶯くんには、黙っておかないと。 「……茉礼、どうかした? 顔色が悪い」 「ううん、なんでもない。ちょっと、寝不足なだけだよ」 「そう」  隣に腰を下ろして、鶯くんが私の長い前髪にさらりと触れる。そのまま唇を重ねて、ゆっくり体が倒れていく。  甘い感覚が染み込んで、息苦しくなる。大きな手が、するりと上服の中へ入り込んだ。 「え、待って」  思わず体を押し返すけど、いとも簡単に(かわ)される。手首を掴む力が強くて、敵わない。 「待たない」
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加