9. 灯火が消えるころに

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 首筋に埋まる顔と、落とされるキスにくらくらする。  鶯くんのことは好きだけど、好きだけど……違う。やっぱり、こんなのおかしいよ。 「……やだっ!」  きっと矛盾しているだろう。頬を赤らめながら、涙をためて必死に抗う姿は、理性を失った眼には映らない。それでも、私は鶯くんを否定する。自分の中に流れる穢れと一緒に。  手が滑って、鶯くんの頬に爪が当たった。引っ掻き傷をつけてしまい、じわりと血が(にじ)む。 「ごめん」  口を開いたのは、私を見下ろす鶯くんの方が先だった。  私も謝ろうとするけど、声は出ない。乱れた息を吐くだけで、物音すらしない部屋は生きた心地がしない。  そのうち鶯くんの頭が落ちてきて、コトンと首の中に埋まる。今度は、抵抗しなかった。さっきまでの荒っぽさや危機を感じなかったから。 「ごめん」  もう一度つぶやいて、頭を優しく撫でる。泣いているような声は、今にも消えてしまいそうだ。 「……鶯くん?」  さらさらと髪が頬をくすぐる。同じシャンプーの匂いがして、胸の奥がギュッと苦しくなる。  藤春くんの時とは少し違う。恋焦がれる愛おしさではなくて、これはーー。 「茉礼、どこ見てる? 頼むから、僕だけを見てて。どこへも行かないで」  声を震わせながら、覆い被さったままの鶯くんが私を抱きしめる。まるで、小さな子どもが姉にしがみついているみたいだ。  もしかして、昔のことを思い出しているの?  私か彼のすべてになれたら、救われるの?  どうしたらいいのか。考えても答えは出ない。  ただ、私に今できることは、こうして背中をさすってあげることだけ。
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