9. 灯火が消えるころに

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 新学期が始まり、みんなの様子を伺ってみる。体育館から帰って来る時も、いつもと特に変わらない。  少し気を張りすぎていたかもしれない。そうホッと胸を撫で下ろすけど、完全に安心したわけじゃない。  一昨日、【オルガ】という宛名から、日時と時間の指定が来た。鶯くんが登校している姿や、友達と話しているところを隠し撮りした写真を添えて。  スマホをポケットに入れて、教室を見渡す。藤春くんを取り囲む女子たちは、こちらを見向きもしない。入学当初の座敷童子に戻ったのだ。おそらく、この脅迫メールを送ったのは別の人。  始業式が終わり、素早く学校を出た。スマホのマップを確認しながら、指定場所へ向かう。  徒歩では、どれだけの時間を要するか分からない。初めて自転車シェアリングといつものを利用した。  慣れない道に苦戦しながら、やっと建物を見つけた。まだ昼間だというのに、この辺りは太陽が当たらないのか薄暗い。 「……誰か、いますか」  大きな倉庫の中を歩きながら、声を出す。やっと振り絞った音量では、気づかれないだろう。  奥の方で金属が擦れる音がした。ビクッと肩が震えたとき、背後に嫌な空気が流れる。おそるおそる振り向くと、いかにも悪そうな男の人が立っていた。 「青砥茉礼ちゃん? お兄さんたちと遊んでくれるって、ほんと?」  逃げなければ。でも、ぞろぞろと人が出てきて、あっという間に囲まれてしまった。
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