60人が本棚に入れています
本棚に追加
衣服を掴んだと同時に、その男を地面に叩きつけた。しまった……つい反射的に投げてしまった。
「いっ、痛ってえーー!」
青砥さんを捕らえている男が、一歩後ろへ下がる。さっきまでの表情と打って変わって、焦っているように感じた。
「別にかまわないけど。青砥さん離してくれるなら」
「お、お前調子に乗ってんなよ⁉︎」
後ろにいた男の手に、鉄の棒らしきものが見えた。これは少しマズイかもしれない。いくらなんでも人数が多すぎる。
上手くすり抜けて、青砥さんだけでも助けないと。そう思った時。
「茉礼に触るな」
背後から聞き覚えのある声がした。長身の高校生が、鉄パイプ男を羽交締めにしている。驚いた男は、素早く手のひらを見せてパイプを離した。カランカランと、不快な音が響く。
「おい、なんか増えたぞ」
「なんなんだよコイツら」
青砥鶯祐。普通ならば、彼女のように瞳孔が開き驚くところなのだろうが、俺は違う。なんとなく納得できてしまう自分がいる。
獲物を狙う狂気的な眼。異常なまでの妹への嫉妬と執着。
「GPSアプリはあの時消したはずだけど」
ゆらりと男たちが迫って来て、背中合わせになった青砥兄に問う。
「最近新しいのを入れて正解だった」
「アンタ、やっぱヤバい奴だね。かなり気色悪いよ」
「君に言われたくないな」
せーのと呼吸を合わせたかのように、同時に飛び出した。殴りかかろうとして来る相手の胸ぐらを掴み、投げ落とす。後ろでもドタバタと人の倒れる音がした。
あと二人かと、青砥さんを人質にしている男に近づくと。
「ま、待て、待ってくれ! 俺たち頼まれただけで」
「そうだよ! 話が違うじゃねぇかぁ〜! どうなってんだよ〜クソ!」
掴んでいた手を離し、青砥さんがよろけた。すかさず体を支えるけど、肩が震えている。相当ショックを受けたのだろう。声を出すこともできず、立っているのがやっとの状態だ。
「あとは僕がする」
俺の手から青砥さんを奪うと、彼は優しく抱き上げた。
あの夏、彼女が選んだのは向こうだ。こっちの世界じゃないことは、何度も飲み込んだはずだろう。
コロンと転がったスマホを拾い上げて、渡そうとしたとき、妙なものが目に入った。ここの地図と指定された日付と場所。スクロールした先には、青砥兄の写真が何枚も続いている。
「なんでアンタまで来るかね。青砥鶯祐」
最初のコメントを投稿しよう!