10. 夜明けに沈む光たち

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 カンカンと階段を降りる足音がして、東堂高校の制服を着た女子生徒が現れた。身長のわりに貫禄のあるオーラで、ふたつの団子頭が特徴的なーー。 「……は? 姉貴?」  小柄な体をヒョイッと浮かせ、地面に着地する。腰を抜かしていた男たちが、姉の合図で退散して行った。  状況の判断ができない。姉が仕組んだことだとして、なんのために? 「見ての通り、アイツらは見せかけや。最初から暴力を振るうつもりはなかった。もちろん、写真持っとるのもウチだけ。怖がらせて悪かったな、茉礼ちゃん」  申し訳なさそうに眉を下げる姉に、カッと血の気が昇る。 「ふざけるなよ……! 勝手に説明して終わらせて。こんな危ない目に遭わせるとか、どうかしてるよ!」 「雪を選んでほしかったんや」  怒鳴り声が響く中、ぽつりと放たれた言葉。  ーー絶対絶滅のピンチに駆けつけて、助ける姿を見せられたら、雪を好きになってくれるかもしれない。雪を救えるかもしれない。  静かな心の声が聞こえてきて、なにも言えなくなる。  全部、俺のせいじゃないか。彼女を危険な目に遭わせたのも、姉を悪に変えてしまったのも。 「ごめん……。ほんとにごめんなさい」  深く頭を下げる姉の前で、青砥さんは小さく首を横に振る。こぼれ落ちそうなほど涙をためながら、何度も何度も大丈夫と。 「僕は許してない。茉礼を危険にさらしたんだ。警察を呼ぶべきだろう」 「やめて! 鶯くん、そんなことしないで」  よろけながら、青砥さんが兄の腕から降りる。絶え入るような声を振り絞り、必死に訴えている。あんな恐ろしい思いをさせられたというのに。  俺のせいで……、俺が生まれたばかりに、彼女を傷つけてしまった。 「今ここで約束しろ。今後一切、藤春家は茉礼に近づかないと」
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