10. 夜明けに沈む光たち

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 音楽もなにもない空間に、金属の擦れ合う音だけが響いている。息を呑む音すら聞こえてしまうほど、静かだ。  スタイリングチェアに腰を下ろし、カットクロスを巻く。 「こ、これで合ってる……かな?」 「うん、合ってるよ」  慣れない手つきで、青砥さんが俺の髪を()かす。鏡に映る彼女の頬がほんのりと染まっていくのが見えて、こっちにまで伝染する。  少しだけ霧吹きをしてもらい、髪を濡らしてから切る説明をした。まだ緊張しているのか、手が震えている。 「ほんとに……いいんですか? 切っちゃって」 「うん」 「私より、月さんの方が上手だと思うし。もし、変になっちゃったら」 「それでも、青砥さんに切ってもらいたいな」  お互いに目を合わせられなくなる。鏡越しと言っても、気持ちがダダ漏れになっている状態では、まともに見られるわけがない。  ーーこれで、ほんとに終わっちゃうんだ。  心の声が時々聞こえてくる。青砥さんが、俺を嫌いで向こうを選んだのではないことくらい分かっている。  でも、どうすることもできない。彼女が決めた道だから、あとは見守るだけ。 「どのあたりで、切ったらいい?」 「うーんと、このへんかな」  ハサミを持つ手に指を重ねて、位置を決める。小刻みに揺れる手が落ち着くまで、じっと待った。 「思いきりいっていいよ。最後の手直しは、姉がするらしいから」 「そっか! よかった」  その言葉を聞いて、少し肩の荷が下りたらしい。ここへ来て、初めて笑った顔が見れた。  サクリ、サクリと少しずつ切られる音がする。髪の一本ずつに神経が通っているのか、やんわり痛みが伝わってきた。ヒリヒリとして、ズキンとトドメを刺す。  最後のひと切りが終わり、俺の髪は肩につかないほどの長さになった。サラリと落ちる髪は、青砥さんの手の中に全てとどまっている。
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