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遅くなることを家族トークで伝えたら、すぐに既読がついた。お母さんは頻繁にスマホを見る習慣がないから、おそらく鶯くんだ。
何か言われるかと思ったけど、了解のスタンプだけが送られてきた。
みんなの前では、普通の兄妹を演じている。それが心苦しくて、家にいる時は息が詰まる。
昨日のことは聞かれなかった。鶯くんにとって、重要だったのは藤春くんの髪を切ることではなく、私の髪が切られないこと。前髪が無事だとわかったら、安心して部屋へ戻って行った。
鶯くんにとって、私という存在は必要不可欠なものなんだろう。
学校から十五分ほど歩いた場所にあるホームセンターへ向かいながら、みんなの姿を眺める。三嶋さんと藤春くんが先頭に並んで、その後ろに普通グループの男女、少し離れて私がついていく。
正直、この方が楽だ。誰かと話す労力を使わなくて済むし、藤春くんと距離を保てる。
「あ、この辺ってたしか、白婆が出る場所だよな?」
辺りを見渡しながら、杉山くんがなにか思い出したように話しだす。
「白婆ってなに? 妖怪のたぐい?」
隣の松川さんが反応すると、二人の会話は妙なことになっていく。
「知らねぇの? この地方に伝わる化け物だよ。ほらあれ、雪女のこと」
ドクン、と心臓が跳ねる。変な汗が湧いてきて、歩幅が狭くなる。
藤春くんはいつも通りの表情で、特に慌てる様子もない。
「このあたり雪女の出身地なの?」
「おそらく。雪女って実際にいるんだぞ。俺、オカルト部だからいろいろ知ってるんだ。まだ末裔が残ってるって噂だぞ」
「へぇー、初めて聞いた」
盛り上がる二人へさらに近づき、聞き耳を立てる。どんな発言が飛び出してくるのか、冷や冷やしていると。
「気に入った人間のこと、氷にしてバリバリ喰うらしいぞ」
「うげ、グロすぎる」
パリンと、心の中で何か割れた音がする。
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