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ーー茉礼を生贄にするつもりだ。
鶯くんの言葉は虚言でなかったとショックを受けたのか、藤春くんの横顔がとても寂しそうに見えたからなのか。
「そんなの迷信でしょー? 雪女とか作り話じゃん。河童や口裂け女と同じ。ね、雪ちゃん?」
三嶋さんが振り向いて、二人の会話に割り入った。同意を求めるように隣を向くけど、藤春くんは黙っている。
気まずい雰囲気が流れ出して、みんなが思い出したように口を開く。
「そういえば、藤春くん……いきなり碧くなったって言ってたよね、目」
松川さんの言葉に続けて、杉山くんも探るような口調で言う。
「髪の毛もすっげぇ白いな。それ、地毛なんだっけ」
どうしよう。二人とも、なにか勘ぐる様子で藤春くんを見ている。まるで尋問だ。
「は? なに言い出す」
「あっ、ああ……ああ……」
三嶋さんが何か話そうとしていたけど、気づいたら唸っていた。その場でうずくまり、ウーウーと発する。
「えっ、なんなの? 怖いんだけど」
歩道の隅で動かない私を囲んで、みんなが騒ぎ始めた。
「お、お腹……痛い」
息をするように嘘を吐く。私の得意分野。
「えー? こんなとこで? 昼なに食ったの?」
とりあえず休憩しようと、近くにあったバス停のベンチへ座ることになった。さっきまでの張り詰めた空気は消えて、みんないつも通りだ。よかったと、胸を撫で下ろす。
なにか言いたそうな藤春くんと目が合うけど、お互いに顔を背けた。
そばにいられなくてもいいから、あなたには笑っていてほしい。
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