11. 鳥籠の鎖は闇に堕ちて

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 買い出しを終えて帰宅する頃には、くたくたに疲れていた。集団行動が苦手なのも大いに関係しているけど、藤春くんを見ると精神的にくるものがある。  数ヶ月前までは、話さなくても苦じゃなかった。なのに今は、話せないことがつらい。 「あ、茉礼ちょうどいいところに来た。ご飯だから鶯祐呼んできて」  二階から下りて行くと、エプロンをしたお母さんがテーブルに夕食を並べているところだった。返事をするタイミングが少し遅れる。鶯くんと二人になりたくないと、考えてしまったから。 「最近、勉強教えてもらってるの? 喧嘩でもした?」 「……ううん、大丈夫」 「ならいいけど。あの子、あまり本音を言わないから、時々心配になるのよね。なにか思い詰めてないかって」  お母さんには、お見通しなのだろうか。私たちの異常な関係を知っているのか。こうした普通の会話すら、詮索して怯えてしまう。 「茉礼もよ? なにかあったら、お母さんに話してね」 「……うん」  まともに顔が見られなくて、私はリビングを出た。ただ、階段を上がるだけで息切れしている。  鶯くんの部屋をノックして、声だけかけた。 「ご、ご飯……だって」  あまりの力無さに驚いたのか、すぐにドアが開いた。心配そうな目をした鶯くんが、「茉礼?」と首を傾げる。 「……もう、わかんなくて。どうしたらいいのか」  手を引かれ、くるんとドアの向こう側へ入り込む。電気の消えた部屋からは、懐かしい匂いがした。  パタンと閉まるドアの前で、大きな腕に抱き締められる。息苦しさに襲われながら、動けない。それほど強く縛られているわけではないのに、手も足も動かない。 「悲しいの?」  頭の上から、穏やかな声が落ちてくる。 「あの子と話せなくて、泣いてるのか?」
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