11. 鳥籠の鎖は闇に堕ちて

5/12
前へ
/141ページ
次へ
「……わからない」  首のあたりに顔が埋まり、耳元にささやきが刺さる。 「僕じゃダメなのか。ずっと、二人でいたじゃないか。僕は茉礼さえいてくれたらいい。茉礼は、違うの?」  寂しそうな声。鶯くんを悲しませたくない。でも、全てを受け入れられるほど、まだ私は大人じゃない。  唇に指が触れて、顔が近付く。金縛りにあったみたいに、どうして体は動かないの。 「茉礼〜? 鶯祐、なにしてるの〜? 冷めちゃうよ〜」  一階から呼ぶ声がして、風船を張りで突いたみたいに、私は鶯くんの体を思い切り押し離した。 「もう、ご飯行かなきゃ」  その瞬間に映った表情が、目に焼き付いて忘れられない。  わざとらしく大きな音を立てて、階段を駆け降りていく。  答えられなかった。鶯くんさえいてくれたら、なにもいらない。いくらでも嘘を吐いてきたのに、その一言が、胸の中でぐるぐると絡まって出てこない。  文化祭の準備は、淡々と終わっていった。ダンボールでドームを作る分担を担うことになり、他の人たちと作業する。  教室の中って、こんな変哲もない場所だったかな。思い返してみるけど、あまり思い出せない。  二週間の期間は、思いの外とても平和で、あっという間に過ぎていた。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加