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「……わからない」
首のあたりに顔が埋まり、耳元にささやきが刺さる。
「僕じゃダメなのか。ずっと、二人でいたじゃないか。僕は茉礼さえいてくれたらいい。茉礼は、違うの?」
寂しそうな声。鶯くんを悲しませたくない。でも、全てを受け入れられるほど、まだ私は大人じゃない。
唇に指が触れて、顔が近付く。金縛りにあったみたいに、どうして体は動かないの。
「茉礼〜? 鶯祐、なにしてるの〜? 冷めちゃうよ〜」
一階から呼ぶ声がして、風船を張りで突いたみたいに、私は鶯くんの体を思い切り押し離した。
「もう、ご飯行かなきゃ」
その瞬間に映った表情が、目に焼き付いて忘れられない。
わざとらしく大きな音を立てて、階段を駆け降りていく。
答えられなかった。鶯くんさえいてくれたら、なにもいらない。いくらでも嘘を吐いてきたのに、その一言が、胸の中でぐるぐると絡まって出てこない。
文化祭の準備は、淡々と終わっていった。ダンボールでドームを作る分担を担うことになり、他の人たちと作業する。
教室の中って、こんな変哲もない場所だったかな。思い返してみるけど、あまり思い出せない。
二週間の期間は、思いの外とても平和で、あっという間に過ぎていた。
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