11. 鳥籠の鎖は闇に堕ちて

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 文化祭当日は、ほとんどの裏方を引き受けて、クラスメイトたちを外へ送り出した。今回は押し付けられたわけではない。自分から進んで、教室に残りたいと申し出たのだ。  一緒に回る人もいないし、なにか役割を与えられている方がよっぽど楽だから。  受付はどうしても無理なので、ドームの補修やライトの点灯などをして、あとは教室でうろうろしていたらいい。  二組ほどの来客を迎え終えたとき、廊下が騒がしくなった。藤春くんなら、他クラスの偵察へ行ったはずだ。戻ってきたのかなと、何気なくのぞいてみたら。 「なにあの顔面国宝級イケメン! しかも東堂高校じゃない?」 「一人? 声掛けちゃう?」  女子たちのキャッキャッとはしゃぐ声に、思わずドームの中へ隠れた。  頭ひとつ分出た背に、黒い髪。チラリと見えたあの横顔は、間違いなく鶯くんだ。  文化祭へ来るなんて聞いてない。どうしようと、暗闇の中であたふたしていると。 「藤春くんと並べて歩きたいよね。あの二人はレベチだわ〜って、え、青砥さん⁉︎ なにしてんの?」  案内役の子がドームのドアを開け、大きな目をさらに丸めた。 「あ、あの、電球不良を、見つけまして……その」  しどろもどろと言い訳を考えながら、シーッシーッと手のひらを合わせる。意図が伝わるわけもなく、そのうちもうひとつの人影が現れた。 「いた」  女子たちの熱い視線など気にせず、鶯くんはドームへ入り込むとドアを閉じた。定員七人ほどのコンパクトな作りではあるけど、実際に肩を並べるとより狭く感じる。 「えっと、どうして……」  少し距離を取ったら、その分だけ縮められた。 「なにもしないよ」  言いながら、私の手を優しく握った。暗闇の中、思考が衰えていく。  今出たとしても、クラスの人たちに怪しまれるだろう。問いただされるのが怖くて、眩しい向こう側へ行けない。 「今のなに? どうゆう状況?」  ほら、ドームの外で案内役の子たちが騒いでいる。この時間が早く過ぎ去ってと願いながら、ふと思う。  私はいつも逃げてばかりだ。嫌なことから顔を背けて、見えないふりをする。臆病で卑怯だ。
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