11. 鳥籠の鎖は闇に堕ちて

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「少し話そう」  静かなトーンで、鶯くんがつぶやく。その言葉を合図のように、パッとライトがついて夜空に星が浮がび上がる。  キラキラと散りばめた星たちが、今にも降り注ぎそう。 「これ、茉礼も作ったの?」 「私は、このまわりの……ダンボール役。切ったり、組み立てたり」 「そっか。キレイだな」  天井を見上げながら、ほんわりと唇の端が弧を描く。その横顔はとても優しくて、私のよく知る鶯くんだ。 「茉礼のこと、ほんとはなにも知らないんだなって」  繋ぐ手がギュッと強まり、胸が張り裂けそうになる。目が合っていたのは、ほんの数秒でも、とても長く感じた。鶯くんの痛いほどの叫びが、伝わってきたから。  プツンと光は消え、再び真っ暗闇へと戻る。五分の鑑賞時間が終わり、私たちは外へと出た。  ドームの前で待っていたのは、数人の女子たち。案内役の子が、とりあえず点灯してくれたようだ。どんな関係なのか、根掘り葉掘り聞かれたけど、答えるより先に鶯くんに連れられて教室を後にした。  そのせいで、背中の方はまたざわつきが広がって、五組のプラネタリウムには人が集まっている。  校舎を飛び出し、まだ人の少ない体育館の方へ向かう。ここは二年生の持ち場だから、私のことを知らない人ばかりだ。 「なんか、この学校すごいな。活気というか、人に酔いそう」 「たぶん、さっきのは鶯くんが原因だよ」 「……そう」  熱烈な女子たちの歓迎に、普段はポーカーフェイスの鶯くんでも参っている様子。  走って来たから、髪が乱れてあちこち飛び跳ねている。手ぐしで直そうとしたら、鶯くんの指が前髪に伸びてきた。 「目に入ってる。まだ切らないんだね」  額から眉、目尻へ這う指先は、耳の後ろで一度止まる。 「……切っても、いいの?」  ツーと下りていって、指は首筋から唇へと移動した。 「できれば、このままがいい。ずっと、僕の中に閉じ込めていたい。誰も見てほしくない」  また光を失った目が現れる。闇に堕ちていく表情の先に、白い髪が映った。とっさに拒んだ体は、簡単に離れていく。脆く崩れるように、静かな音を立てて。
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