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「少し話そう」
静かなトーンで、鶯くんがつぶやく。その言葉を合図のように、パッとライトがついて夜空に星が浮がび上がる。
キラキラと散りばめた星たちが、今にも降り注ぎそう。
「これ、茉礼も作ったの?」
「私は、このまわりの……ダンボール役。切ったり、組み立てたり」
「そっか。キレイだな」
天井を見上げながら、ほんわりと唇の端が弧を描く。その横顔はとても優しくて、私のよく知る鶯くんだ。
「茉礼のこと、ほんとはなにも知らないんだなって」
繋ぐ手がギュッと強まり、胸が張り裂けそうになる。目が合っていたのは、ほんの数秒でも、とても長く感じた。鶯くんの痛いほどの叫びが、伝わってきたから。
プツンと光は消え、再び真っ暗闇へと戻る。五分の鑑賞時間が終わり、私たちは外へと出た。
ドームの前で待っていたのは、数人の女子たち。案内役の子が、とりあえず点灯してくれたようだ。どんな関係なのか、根掘り葉掘り聞かれたけど、答えるより先に鶯くんに連れられて教室を後にした。
そのせいで、背中の方はまたざわつきが広がって、五組のプラネタリウムには人が集まっている。
校舎を飛び出し、まだ人の少ない体育館の方へ向かう。ここは二年生の持ち場だから、私のことを知らない人ばかりだ。
「なんか、この学校すごいな。活気というか、人に酔いそう」
「たぶん、さっきのは鶯くんが原因だよ」
「……そう」
熱烈な女子たちの歓迎に、普段はポーカーフェイスの鶯くんでも参っている様子。
走って来たから、髪が乱れてあちこち飛び跳ねている。手ぐしで直そうとしたら、鶯くんの指が前髪に伸びてきた。
「目に入ってる。まだ切らないんだね」
額から眉、目尻へ這う指先は、耳の後ろで一度止まる。
「……切っても、いいの?」
ツーと下りていって、指は首筋から唇へと移動した。
「できれば、このままがいい。ずっと、僕の中に閉じ込めていたい。誰も見てほしくない」
また光を失った目が現れる。闇に堕ちていく表情の先に、白い髪が映った。とっさに拒んだ体は、簡単に離れていく。脆く崩れるように、静かな音を立てて。
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