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藤春くんと話さなくなって、数ヶ月が過ぎた。新年を迎えてから、私は毎週神社へ足を運んでいる。
ある土曜日の朝。鶯くんの塾を見送って、私はバスに乗った。しばらくして降りたところに神社がある。最近知ったのは、ここに祀られているのが雪の神とされている龗という神様らしい。
石垣の階段を登り、鳥居をくぐって少し進むと本殿が見えてくる。手を合わせて、いつも通り願いを唱えた。
ーー藤春くんの呪いが消えて、一七才を迎えられますように。鶯くんが救われますように。
参拝をして帰ろうとしたとき、視界に黒いズボンが飛び込んできた。
「あっ」
顔を上げた拍子に小さな声が漏れる。お互いに、数秒の時間が止まった。こんなところで藤春くんと会うなんて、どんな神様のいたずらだろう。
気まずい空気が流れて、私は足早に去ろうとした。気が動転したのか、階段を踏み外し勢いよく転んでしまった。
恥ずかしさに襲われながら立ちあがろうとするけど、上手くできない。足を捻ったらしい。
「痛っ」
ズキンとする足首を引きずったとき。
「待って、無理に動かさない方がいいよ」
駆け寄ってきた藤春くんに、体を支えられた。ふんわりした懐かしい香りに、胸がギュッと締め付けられる。
腕を抱えて石段まで来ると、私をそっと座らせてくれた。
「少し休めた方がよさそうだね」
「……うん、ありがとう」
なぜか、藤春くんも隣に腰を下ろす。一人で置いて行くには、心苦しいのかな。藤春くんは、前からそうゆう優しい人だった。
「元気だった?」
静かな青空の下に、白い息が広がる。数ヶ月ぶりの会話に、目頭がじわりと滲む。
「……それなりです。藤春くんは?」
「特に、変わりないよ」
「よかったです」
ぎこちない空気が、冷たい風と流れていく。手を擦り合わせたりして、そわそわが止まらない。
「同じクラスなのに、変な会話」
「たしかに」
お互いからクスクスと笑う声がこぼれて、目を合わせた。この感じ、すごく懐かしい。
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