11. 鳥籠の鎖は闇に堕ちて

10/12
前へ
/141ページ
次へ
 藤春くんと話さなくなって、数ヶ月が過ぎた。新年を迎えてから、私は毎週神社へ足を運んでいる。  ある土曜日の朝。鶯くんの塾を見送って、私はバスに乗った。しばらくして降りたところに神社がある。最近知ったのは、ここに祀られているのが雪の神とされている(おかみ)という神様らしい。  石垣の階段を登り、鳥居をくぐって少し進むと本殿が見えてくる。手を合わせて、いつも通り願いを唱えた。  ーー藤春くんの呪いが消えて、一七才を迎えられますように。鶯くんが救われますように。  参拝をして帰ろうとしたとき、視界に黒いズボンが飛び込んできた。 「あっ」  顔を上げた拍子に小さな声が漏れる。お互いに、数秒の時間が止まった。こんなところで藤春くんと会うなんて、どんな神様のいたずらだろう。  気まずい空気が流れて、私は足早に去ろうとした。気が動転したのか、階段を踏み外し勢いよく転んでしまった。  恥ずかしさに襲われながら立ちあがろうとするけど、上手くできない。足を捻ったらしい。 「痛っ」  ズキンとする足首を引きずったとき。 「待って、無理に動かさない方がいいよ」  駆け寄ってきた藤春くんに、体を支えられた。ふんわりした懐かしい香りに、胸がギュッと締め付けられる。  腕を抱えて石段まで来ると、私をそっと座らせてくれた。 「少し休めた方がよさそうだね」 「……うん、ありがとう」  なぜか、藤春くんも隣に腰を下ろす。一人で置いて行くには、心苦しいのかな。藤春くんは、前からそうゆう優しい人だった。 「元気だった?」  静かな青空の下に、白い息が広がる。数ヶ月ぶりの会話に、目頭がじわりと滲む。 「……それなりです。藤春くんは?」 「特に、変わりないよ」 「よかったです」  ぎこちない空気が、冷たい風と流れていく。手を擦り合わせたりして、そわそわが止まらない。 「同じクラスなのに、変な会話」 「たしかに」  お互いからクスクスと笑う声がこぼれて、目を合わせた。この感じ、すごく懐かしい。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加