11. 鳥籠の鎖は闇に堕ちて

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 それなのに、私はなにも答えられなかった。バカみたいに口をぽかんと開いたまま、石のように固まって。間抜け面を晒していただろう。 「それが青砥さんの答えだよ。それでいいんだ。もう俺のことは気にしないで、自分のこと大事にしてよ。俺のためにも」  じゃあねと背を向けた藤春くんが、「あっ」と振り返って。 「久しぶりに話せて、よかった」  それだけ言って、帰って行った。小さくなる背中を、追いかけられなかった。  鈍い痛みが足に残るけど、それ以上に痛むのは胸の方だ。目の前が霞んで、あっという間に景色が滲んでいく。  自分がどうするべきなのか、わからない。 「茉礼」  ハッとして顔を上げると、誰か立っていた。まぶたの水玉を指で弾いて、ぼんやりした輪郭がはっきりと浮かび上がってくる。 「……鶯くん?」 「塾の帰り。まだ神社にいるはずだから、迎えに寄ってって。母さんからメッセージあった」  それほど長居していたのかと、素早く立ち上がった。足に力が入らず、思わずよろける。まだ完全には、痛みが引いていない。 「足、怪我したのか?」  腰を支えてくれた鶯くんが、顔をのぞき込む。涙まみれでぐしゃぐしゃの頬を、無表情のまま優しく拭った。こうなることを、初めから知っていたかのような落ち着き。 「歩けるから、大丈夫」 「……そうか」  腕を貸してもらいながら、ゆっくりと歩き出す。  肌を刺す風と、いつしか降り出していた雪が手に触れては消えていく。その結晶をギュッと握りしめて、私はまっすぐ前へ向き直った。
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