56人が本棚に入れています
本棚に追加
/141ページ
12. 幸せの雫は死を望む
二月もあと一週間となった頃、冬の寒さはピークを過ぎようとしていた。少しずつ春へ近づいてくる季節に、一人だけタートルネックで完全防備はやたら目立つ。
白い髪と碧眼に加えて、黒い布で首を覆っているのだから、クラスメイトたちは放っておかない。質問の嵐を軽くかわして、藤春くんは窓側の席へ着く。
気になっているのは、私も例外ではない。ギリギリ校則違反ではないようだけど、昨日はそれなりに温かい気候だった。
なにか見られたくないものでもあるのかと、勘繰ってしまう。
「雪ちゃん、今日遊びに行こうよ」
「いいよ」
「えー、あたしが先に約束してた!」
「みんなで行けばいいじゃん」
「ダメ。今日はデートだから!」
「ずるい! じゃあ私も明日デートする」
「わかった、順番ね」
最近、藤春くんは変わった。女子たちに囲まれているのは元からだけど、神社で偶然会ったときを境にデートばかりしている。
私へ向けていた純粋な表情は、幻だったのかもしれない。
こんな息の詰まる教室にはいたくない。おもむろに立ち上がり、一番後ろから藤春くんの席の横を通る。
何を期待していたのだろう。視線は合うことなく、女子にキラキラした笑顔を振る舞う彼を確認して、私は教室を後にした。
家の部屋で布団にくるまり、思い出しては何度も涙を流す。話せなくてもなんとか正気でいられたのは、心のどこかで鶯くんのせいにしていたから。
関わらない約束を交わしただけで、心は通じ合えていると思っていた。
でも、その希望すら散ってしまった。
耐えられなくて、学校を休んだ三日目の夕方。学校から帰宅した鶯くんが、部屋のドアを開けた。
塞ぎ込んでいる私の横へ腰を下ろして、ふんわりと頭を撫でる。
「まだ起きれなそう?」
最初のコメントを投稿しよう!