12. 幸せの雫は死を望む

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「鶯祐、なんでこんなことになったの⁉︎」  勢いよく肩を掴まれて、ゆさゆさと揺さぶられる。視界がぐらつき、あわあわと狼狽えていると、ポツンと頬に雨が降って来た。それは大粒の嵐になって、掠れた泣き声が混ざり合う。 「こんな美人に好かれてるって言うのにさ。振り向きもしないんだから。バカだよ、鶯祐は。死なないでよ……、ぜったい!」  その人は、うわーんと声を上げながら、鶯くんのベッドに崩れ落ちた。  人が取り乱していると、意外と冷静になれるものらしい。干からびるほどに泣いていた私が、彼女の気迫に負けて今は涙がひっこんでいる。 「……必ず、大丈夫です。鶯くんは、勝ちます」  根拠もなにもないけど、戻って来てくれると信じている。 「目覚ましたら、また来るって伝えてくれる?」  それだけ言い残して、彼女は去って行った。名前を聞きそびれてしまった。家に来た人だと伝えたら、わかるだろうか。  袖からのぞく手首には、なにもない。とっくに消えている鶯くんの跡を掴み、怖くなる。  この世に絶対など存在しないことくらい、よく知っているつもりだから。  四日目の日曜日。うとうとしながら、病院のベッドで朝を迎えた。一人だけ泊まれる病室で、ほとんど私が付き添っている。  お父さんもお母さんも仕事があるから、いつも終わってから顔を出していく。二人とも深くは聞いてこないけれど、知りたがっている。あの日、何があったのか。  スマホの待ち受け画面を眺めながら、だんだんと数字が滲んでいく。あっという間に目の前が見えなくなって、泣いていることに気づいた。  どうしたらよかったのだろう。ただ、幸せになりたかっただけなのに、神様は許してくれない。
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