12. 幸せの雫は死を望む

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 動かない藤春くんの頬を触り、置き物のような顔にそっと近づく。重ねた唇は無言のまま、涙の跡が染み込む。  失ってからでは遅い。取り戻すことはできない。  冷たい胸元で泣いていたら、ぽわんと光っていることに気づいた。塵が折り重なった輝きは、透明になりかけている彼の体を覆っている。 「なんということじゃ……」  氷が溶けるように、肌の色が戻っていく。ひび割れがなくなり、毛先から爪の先にまで、色が蘇った。 「……藤春……くん?」  半信半疑に首をかしげる。ピクリともしなかった藤春くんのまぶたが、ゆっくりと持ち上がっていく。  奇跡が起きたのだろうか。そう思ったのも、束の間のこと。全身に電気が走ったように、体が動かなくなった。なにかを考える余裕もなく、声も出せない。  ああ、私はこのまま死ぬのか……。  どこか冷静な自分がいて、最期を悟った。  後ろ髪を引っ張られている感覚に襲われる。そのすぐあと、ザッと強い衝撃がきて、私は前へと倒れ込んだ。  誰かが支えてくれている。藤春くん……なの? 「俺の大切な人なんだ。助けることはできないの?」  頭の上で何か聞こえる。手足が痺れて、感覚が薄れていく。 「残念じゃが、ない。愛する者の心を喰べることで、男の末裔は生き延びてきた。それができぬ者は息絶えてきた。初めからそう決まっとる。変えられぬ運命じゃ」 「じゃあ、今、俺が変えるよ」  凍りついていく私の肌。小さく呼吸をするたびに、白い息が出る。 「俺の右目を代償にするから、彼女を助けて」 「そんなことが、できるわけ……!」
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