12. 幸せの雫は死を望む

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 抱きしめられる腕の中で、はっきりと見える。藤春くんの右の碧目から、光が消えていく。瞬きした次の瞬間には、暗闇の色へと変わっていた。  心臓の辺りがぽわんと暖かくなって、その光が氷を溶かしていく。固まっていた指が、体が動いた。 「……藤春……くんっ」  最初に出た言葉が、名前だった。  私たちを取り囲んでいた人たちから、声が上がる。『信じられない』『ありえない』と、皆が口々に話す。 「女しか生まれないとされる中、男児は災いを持った子と言われ、神に祀られるのが掟。家系以外の女の血筋を受け入れることを嫌った先祖の名残りからじゃ。それを覆すとは、実にあり得ぬ事態……!」  まわりが騒つく中、藤春くんは冷静だった。戸惑う私の手を取って、ひび割れた肌を優しくさすってくれる。 「初めから決まってるわけじゃない。今まで、こうする人がいなかっただけのこと。共に生きる選択も、あってよかったんだよ」  見上げた頬に、ポツリポツリと雨が降って来た。それは、美しい瞳からこぼれ落ちては、私へ降り注ぐ。 「来てくれて、ありがとう。俺も、大好きだよ」  ささやかれる言葉に、再び目頭が熱くなる。  諦めなくて、よかった。  心に嘘を突き通さなくて、よかった。  藤春くんを好きになれて、私は幸せ者だ。
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