1. 秘め事は黒いベールの下に

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1. 秘め事は黒いベールの下に

 背中まである黒髪は真っ直ぐ下りて、前髪は黒縁眼鏡のフレームに掛かっている。  もうすぐ梅雨明けだからではなく、年中膝下のスカート丈は、紺のハイソックスと繋がってタイツ化。見るからにダサい。  電車の向かい側に座る他校の女子から、お化け呼びをされようが、私は気にしない。好きでこの格好をしているのだから。  スマホ画面に浮かぶ「着いたよ」の文字。  もうすぐ会える。唇が緩みそうな思いを抑えて、泥の靴跡が散らばる床にきらきらとした視線を戻した。  電車が止まるより早くドアの前に立ち、小走りで向かった駅の正面には、艶のある黒髪にスラッとした背丈。後ろ姿でも格好良いだろうと想像出来る男子の右手には、乾いた傘が閉じた状態で下げられている。  ゆっくり呼吸を整えて、そっと彼に近付く。 「ごめんね、待った?」  反応がない。……そっか。  ポンと腕に触れると、耳のイヤホンを取りながら(おう)くんが振り返った。 「あっ、ごめん。音楽聴いてて気付かなかった」  ほんのりと頬を赤らめて、ううんと首を振る。 「帰ろうか」  少し低めで落ち着きのある心地良い声。(おう)くんの声は、昔から子守唄のように包み込むような安心感がある。 「……ちょっと、待って……あっ、青砥(あおと)さん!」  背後から、騒がしい足音と声が聞こえて来た。  何事だろうと、私たちは一緒に振り返える。 「……よかった……はぁ、間に合った」  息を切らして走って来た人物は、クラスメイトの藤春(ふじはる)(ゆき)だ。  サラサラした色素の薄いロングヘア。長いまつげと小さな鼻に、きれいな色の艶やかな唇。まさに美少女。  入学して約二ヶ月が経とうとしているけど、話したことなど一秒たりともない。  そもそも、他のクラスメイトとさえ言葉を交わしたことがないぼっちの私に、こんな人がなんの用なのか。
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