1. 秘め事は黒いベールの下に

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 黙ったままの私と、隣の鶯くんをぽかんとして交互に見ている。  ……あまり、じろじろ見ないで。  正直、この人が私の名を呼んで目の前に立っていること自体に気が気じゃない。  何もしていないのに、とばっちりを受けた幼稚園児の気持ちになる。  ーーああ、私は何も約束を破っていないのにって。 「……カレシ?」  首を傾げる彼女。  お願いだから、余計なこと言わないで。  おどおどしていると、鶯くんが私の肩を軽く引き寄せた。 「茉礼(まれ)に何か用ですか?」  いつもより更に低い声だ。  彼女は、なんと答えるんだろう。  手のひらの汗が、じわりとにじみ出てくる。 「あっ、えっと、これ、電車に忘れてたので。明日学校で渡せばいいかなって思ったんだけど、ないと困るかなって」  はいと差し出された可愛げのないシンプルなスマホケースは、確かに私のだ。  ちゃんとスカートのポケットに入れたはずなのに、いつの間に落としていたんだろう。  かと言って連絡する友達はいないから、それほど不便は感じないのだけど。  でも、スマホを届けるためにわざわざ追いかけて来てくれたなんて、少し驚いた。こんな存在感のない私なんかのために。 「わたしが隣に座ってたの、気付いてなかったでしょ。ずっとスマホ見てたから……」  出しかけた手を、すばやく引っ込めた。 「ありがとね」  彼女の言葉を聞き終えるより先に、横から割り入った大きな手がスマホを受け取ったから。  そのまま鶯くんに手を引かれて、駅を後にした。  一連の動作が早すぎて、藤春雪がどんな表情をしていたのか分からなかった。  ずっと俯向(うつむ)き加減でいたからというのも、大いにあるけど。
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