1. 秘め事は黒いベールの下に

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 薄暗い空の下、弾くような雨音が傘に響く。  お礼を言った方が良かったのかなと思いながら、その考えをすぐに打ち消した。 「さっきのは……セーフ?」  足元でパシャパシャと水が跳ねる音を感じながら、隣を見上げた。  鶯くんの無表情は、たまに怖い時がある。何か気に障ることをしたかもしれないと、少し不安になる。 「わざわざ追いかけて来てくれるなんて、優しい子だよね。それとも」  繋がったままの手が、ギュッと握られて。 「……仲、いいの?」  鶯くんの眼が、チラリとこちらを向いた。  どくん、と心臓の音が鳴る。 「ぜ、全然!」  首を大きく振って否定した。 「話したことも……ない。ほんとだよ?」  傘を持つ反対の手に力が入って、胸の奥を(こぶし)で押されているみたいに苦しくなる。 「べつに怒ってないよ」  いつも通りの優しい笑みを見て、緊張していた胸がふわっと和らいでいく。  ……よかった。  だって、鶯くんに嫌われたら生きていけない。  茶色の瓦屋根に明るいクリーム色をした一戸建ての家。  レンガ調になっている玄関ポーチの前で傘を閉じ、眼鏡を外した私は明かりの付いた家へ 「ただいま 」 と入る。  すぐにエプロンを付けたお母さんが飛んできて、年齢の割にしわの少ない頬を上げた。 「おかえりなさい。ご飯出来てるから、ちゃんと手洗いうがいしなさいよ」 「子どもじゃないんだから、言われなくてもやるよ」  呆れ笑みを浮かべる鶯くんに続いて、私も自分の部屋へ上がる。  通学鞄を置いてから、一階の洗面台へ手を洗いに降りた。  ーー青砥(あおと)鶯祐(おうすけ)。  彼は私の兄だ。血縁関係の無い義理の兄。  お母さんと彼の父が再婚したのは、私が六歳で鶯くんが七歳の頃だから、もう十年近くになる。  不和が生じるわけでもなく、普通の家庭と変わらない。  私たちは、両親の願い通り家族になっている。
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