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カーテンの隙間から溢れる光に、眉を顰めて寝返りを打つ。さらりと横の髪が顔を覆い、まるでホラー映画の幽霊のようになる。
薄っすらと瞼を開けるけど、無気力な頭は枕に沈んだまま。ぼーっとして、朝は思考が働かない。
ぼんやりと視点が定まらないでいると、黒髪の暖簾がさらりと上げられ、目の中に黒い瞳が飛び込んで来た。漆を塗ったような艶やかな黒色。
「お……うくんっ!」
慌てて飛び起きると、鶯くんがクスッと笑って壁時計を指さした。
「起きなくていいの? 今日は学校休みなんだ? 」
意地悪なことを言ってるのに、表情は穏やかで、太陽が見守るように優しい。
その顔を見ると、胸がキュッと締まって熱くなる。
……って、見張れてる場合じゃない。
七時十分を示す時計の針。それは私の遅刻を意味する数字でもある。
嵐の如く支度を済ませ、滝が流れるように家を出た。
毎朝、私たちは最寄りである葉歌駅まで一緒に登校している。
「じゃあ、また帰りに。学校頑張れ」
「……鶯くんも、ね」
「うん、いってきます」
「いってらっしゃい」
鶯くんが通う東堂高校は反対側のホームで、私の蘭学園とは逆方向へ電車が進む。
名残惜しく別れた後、鶯くんは向こう側から手を振ってくれる。周りの目を気にしながら、私は小さく手を振り返して。そんな些細なことが、たまらなく嬉しい。
ーーカレシ?
昨日、藤春雪はそう聞いて来たけど、私たちは恋愛関係にあるわけじゃない。
好きだとか、たった二文字の言葉ではまとめられないほど、鶯くんは特別な存在なの。
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