1. 秘め事は黒いベールの下に

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 カーテンの隙間から(こぼ)れる光に、眉を(しか)めて寝返りを打つ。さらりと横の髪が顔を(おお)い、まるでホラー映画の幽霊のようになる。  薄っすらと(まぶた)を開けるけど、無気力な頭は枕に沈んだまま。ぼーっとして、朝は思考が働かない。  ぼんやりと視点が定まらないでいると、黒髪の暖簾(のれん)がさらりと上げられ、目の中に黒い瞳が飛び込んで来た。(うるし)を塗ったような艶やかな黒色。 「お……うくんっ!」  慌てて飛び起きると、鶯くんがクスッと笑って壁時計を指さした。 「起きなくていいの? 今日は学校休みなんだ? 」  意地悪なことを言ってるのに、表情は穏やかで、太陽が見守るように優しい。  その顔を見ると、胸がキュッと締まって熱くなる。  ……って、見張れてる場合じゃない。  七時十分を示す時計の針。それは私の遅刻を意味する数字でもある。  嵐の(ごと)く支度を済ませ、滝が流れるように家を出た。  毎朝、私たちは最寄りである葉歌(はうた)駅まで一緒に登校している。 「じゃあ、また帰りに。学校頑張れ」 「……鶯くんも、ね」 「うん、いってきます」 「いってらっしゃい」  鶯くんが通う東堂(とうどう)高校は反対側のホームで、私の(あららぎ)学園とは逆方向へ電車が進む。  名残惜しく別れた後、鶯くんは向こう側から手を振ってくれる。周りの目を気にしながら、私は小さく手を振り返して。そんな些細なことが、たまらなく嬉しい。  ーーカレシ?  昨日、藤春雪はそう聞いて来たけど、私たちは恋愛関係にあるわけじゃない。  好きだとか、たった二文字の言葉ではまとめられないほど、鶯くんは特別な存在なの。
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