1. 秘め事は黒いベールの下に

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 弁当を広げて机をくっつける生徒たち。  教室に漂う空気は、昼になっても耳目(じもく)を塞ぎたくなるものばかり。  高校生と言えば思春期真っ只中で、好奇心の(かたまり)みたいなもの。  ーー五限目、めんどくせぇ。  ーーてめぇふざけんなよ。死ねよ!  ーー今週、彼氏の家に泊まることになったんだけど〜。それって、ぜったい……だよね。  怠惰(たいだ)、言葉の暴力、男女の色欲(しきよく)。 「……はぁ」  まわりに聞こえないほどのため息を吐き、すんとして席を立った。  薄汚れた空気は、吸いたくない。  いつものように弁当を持って、ひとり教室を出た。  あんなふうには、なりたくない。  校舎裏を歩いていくと、校舎の奥からなにやら声が聞こえて来る。誰かいる? 「……いいだろ? キスくらい、減るもんでもないし」 「……ごめんなさい」 「藤春ちゃんさぁ、知ってるよ? 女子にはずいぶん優しいらしいじゃん。なに、君ってそっち系なの?」  思わず足を止めて、校舎の影に隠れた。  藤春雪が、男子に絡まれてる。でも、私にはどうすることも出来ない。ごめんなさい。  立ち去ろうとした時、カシャッと写メを撮る音がした。  なに、今の音。  周りには誰もいない。不思議に思っていると、藤春雪に絡んでいたらしき上級生の男子が目の前に現れた。  茶髪にピアスを付けて、いかにもチャラそうな格好。 「なんだお前。今、盗撮したよな?」  ぶるぶると首を振る私の肩を抱き、強引に裏へと連れて行く。  すごい力……抵抗出来ない。かと言って、声も出せない。  されるがままに引きずられて、もう一人が待つ場所へ。 「……青砥さん?」  ぽかんとした表情の藤春さんが、こちらを見ていた。 「すげぇビン底メガネ。俺、こんなん初めて見たわー。おもしれぇ」  覗き込まれて、俯いて顔を必死に隠す。  こわい、やめて。絶対に目を見られるわけにはいかないの。 「そりゃこんな美少女が同じ学校(ガッコ)にいたら、顔隠したくもなるよなぁ」  ぐいっと肩を抱かれて、震えがおさまらない。 「その子は関係ないでしょ。告白断ったからって、逆恨みしないで下さい」
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