第3話

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第3話

「この世に戻りたくはないですか?」  私の未練。 「猫が」 「飼われている?」 「アパートの近くに空き地があって、ほんとはいけないんですがご飯をあげてる子がいるんです。まだ子猫なんですけど親とはぐれてしまったようで」 「取り引きをいたしましょう」 「取り引き、ですか?」 「生き返らせて差し上げます。国も性別も年齢も外見も時代も自由。何処かの国のお姫様にも大国の王でも何にでも生まれ変われます」 「なんにでも、ですか」 「ええ。こちらの条件を申します」 「条件……」 「魔物調伏」 「ま」 「魔界も住人が過剰となり、適度に間引きしないと別の層に実害が出る。そこで、こうして不慮の事故で落命された方に、生き返るのを条件にお声がけさせて頂いている次第」 「あの、魔物って」 「先ほども説明いたしましたが、幾層もある地図のうちの一枚に魔界と呼ばれる世界が御座います。村雨さんにはそこに赴いていただき、魔物を百匹退治して頂く」  そう云いながらヤナギタは紙切れを差し出した。まるで夏休みのラジオ体操の時に貰うスタンプカードのように升目が書かれている。 「私、退治なんて、格闘技とかできませんしその」  するとヤナギタは傍らに置いていた大きなケースを開いた。そこには銃器火器刀剣類に爆弾まで様々な武器が押し込められていた。 「お好きなものどれでも。徒手空拳で立ち向かえる程魔物調伏は容易ではありません」  ヤナギタの提案を受け入れなければ、このまま座して死を持つのみとなるのだろう。    死ねない。  琴子はそう強く思った。たかが野良の子猫一匹だろうと、それは琴子にとって、この世に戻る大きな理由になる。  琴子はライフルを選んだ。父の遺言で高校生までライフル射撃を続けていたが、まさかそれがこんな状況で影響するとは思わなかった。 「やだ、重い……」  全長1.43メートル、重量10キログラム。最大射程三キロメートル。  琴子は二つ折りできる銃身を畳み、背負い紐をたすき掛けにして背に負った。眼鏡がずれた。 「では契約です。仮の命を授けます」 「しくじった場合は……?」 「地獄行きです」 「地獄ってあの、閻魔様とか鬼とか」 「それは随分と仏教寄りの地獄観ですね。さて、弾丸は百あればいいですか」  ライフルの重さに辟易していた琴子は思わず生返事をしてしまう。 「期限は四十九日」
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