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第4話
太陽もないのに明るい。
樹木が空に浮いている。
物悲しい鳴き声が響く。
天地逆様のビルヂング。
赤い海そして薄紫の空。
大きな石仏が砂に埋もれ、錆びた鉄搭がその影を墓標のように曝している。
「ここが魔界……?」
琴子は首から下げたスタンプカードに目を落とした。あの几帳面そうなヤナギタの手作りだろうか。頭上を何かが飛び去る。琴子は空を見上げ、思わず悲鳴が出そうになるのを堪えた。
羽のように大きな耳で紫色の空を飛ぶ大きな顔。
あきらかにこの世のものではない。しかし、視界に広がる風景はどこか壊れていながらも、藁葺屋根や板葺屋根に板壁の家屋に、ぽつぽつと鉄筋コンクリートの建物が混ざり、木の電柱に朱の鳥居、朽ちた寺院と琴子の知る世界からそれほどかけ離れた光景ではなかった。
胸の奥がざわざわする。不快感と高揚感が混ざり合った妙な感覚。
琴子は奇怪な空飛ぶ顔に追いたてられるように、大きな御殿の影に隠れようとした。途端に頭上で大きな音が鳴り、ばらばらと屋根瓦が落ちた。
琴子は息を飲む。
御殿の屋根に大きな獣が蹲っていた。
猿の顔、虎の手足、尾は蛇。
吐き気を催すほどの腥臭。
「ぬ、鵺?」
平家物語は事実だったのかと琴子は嘆息した。
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