66人が本棚に入れています
本棚に追加
第43話
あの人はどうしてそうまでして俺を助けたのか。
ずっとずっと考えていた。
俺のせいで何もかも失い、挙句命まで。
俺が殺したようなものだ。
突っ込んできたトラックから俺を助けるため、あの人は俺を突き飛ばしトラックに撥ねられて死んだ。馬鹿だ、本当に馬鹿だ。どうして俺のような屑を命を張って助けられたのか。お陰で膝と手のひらに擦り傷を負っただけで命拾いをした俺は、それから深い迷いの海に沈んだ。その海はどこまでも深く、気づけば一切光の届かないところにまで沈降した。上を見ても横を見ても闇。呼べど叫べど声は誰にも届かない。絶望。いや、迷妄。煩悶。
陳腐でチープで生ごみ以下のプライドが邪魔をした。
二十歳近くも年上の女性を好きになった自分が信じられず、周りにフケ専だのマザコンだの馬鹿にされたのが耐え難く、結局愚にもつかない嘘を吐いた。馬鹿だ、本当に馬鹿だ。糞だ。
あの日もずっとあの人のことを考えていた。
出来ればもう一度会い、謝りたい。誠心誠意謝罪して、そして万が一許されたなら、もう一度ちゃんと気持ちを伝えたい。二度と叶わないことだとわかっていながらそう思う。
二度と叶わないから人は恋焦がれる。周りが見えなくなるほど。
死のうと思ったわけじゃない。
気づいたら俺は、特急列車の通過駅でホームから線路に首を突き出していた。
最初のコメントを投稿しよう!