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第9話
琴子は反芻する。思い返してもいいことなどまるでない自分の人生を振り返る。
そうか、あのヒーローの変身前の役者に面影が少し似ているんだと琴子は余計なことに気づく。だからなにかにつけ寒立を見つめてしまう。
「無理して食べろとは云わない。だけど、生き返ると決めた以上は、余計なことは考えない方がいい」
寒立の言葉はもっともだ。しかし琴子は踏ん切りがつかない。
「方法は一つじゃない」
その言葉を寒立がどういう意味で発したのかはわからないが、琴子はハッとした。
「自分を変えなくてはいけない局面は、必ずどこかで訪れる」
あの根本と然程変わらない年齢だろう寒立の、その落ち着いた言葉に琴子は感じ入った。
「私は、でも……無理です」
魏屋は舌打ちし、槙島はうぜえと漏らした。
「このまま何も食べずにいるつもりですか?」
それも無理なことなどわかっている。だから私は駄目なんだと琴子は自戒した。寒立はまた苦笑いした。
「生き返りたいんですよね?」
「はい」
「理由はなんですか? ちなみに僕はバイクで移動中に死にました。僕は生き返って起ち上げたばかりの会社を大きくしたい」
「私は、あの、」
琴子はアパートに近くにいる子猫の話をした。
馬鹿じゃねえのと槙島は云う。それは予想できた答えだったが、寒立の言葉は琴子の胸に突き刺さった。
「村雨さんはそれほど真剣にその子猫のことを考えていない。本当にその猫が心配なら、どんなことをしてでも生き返ろうとするはずだ」
無関心な魏屋や他人を見下す槙島と違い、寒立の言葉は真摯なだけに鋭利だ。
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