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中学の3年間で一度だけ、一緒に帰った事がある。
と言うか、帰り道で少し先に歩いているのを見つけたのだ。アイツは、学校からしばらく歩いた所にある停留所の路線を使って、バスに乗って通学していた。
オレは中学も高校もずっと自転車通学で、前を歩く小さな背中を見つけて、同じクラスの同じ名前のヤツだと気付いた。乗っていた自転車を降りて、押して行って声をかけた。
何を話したのかとか、なぜそんなタイミングがあったのかとか、そういう細かいことは覚えていない。
ただ、夕日に照らされた川がキラキラ光っていて、涼しい風が吹いていて、芝生の生えた川原ではキャッチボールをしている親子が居た。どこからか魚を焼く匂いがしていた。
そんなどこにでもある夕方の風景の中。川沿いを歩きながら、栄は少しだけまぶしそうに大きな目を細めて、オレの話すことをニコニコして聞いていた。肌の色が薄めで、サラサラの髪の毛まで夕日のオレンジに染まっていた。
じゃあ僕こっちやから、とバスの停留所に歩いていく栄の背中を見ながら、もう少し話したいと感じたのは覚えている。
でもその翌日に教室で見かけても、特に話すことはなかった。
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