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その頃、栄は放送部に入っていた。
もともと部員が少なくて困っている様子だったのと、昼休みの放送で自分の好きな曲を流せると聞いての事だった。
あとで聞いたところによると、朝礼や運動会でも基本的に放送室に居て、アナウンスをしていればいいから楽だったそうだ。
昼休みに放送室に弁当を持って行って、それではお昼の放送を始めます、と言うその声変わりは遅かった。
蟹江と大治が教室を訪ねてきて、ミツヤってやつ呼んで、と誰かに言ったらしい。
それで間違って呼び出された栄は、困ったようにオレを指さしていた。気付いて、近寄っていく。
「何やってんの?」
「ミツヤ呼んでって行ったら出てきた」
大治の答えに、また少しだけ笑ってしまう。中学の時の再来だった。見上げてくる栄の肩に手を置いて紹介した。
「こいつもミツヤっていうねん。下の名前やけど」
すると栄は、二人に向かって小さく頭を下げる。
「栄 弥八です……」
少し申し訳なさそうに言われた蟹江と大治は顔を見合わせ、よろしく、と同じように頭を下げた。
「同じミツヤでも全然ちゃうな。礼儀正しいと言うか……」
「同じ学年やねんからタメでええのに」
ふたりがそう言い、大治が当然のように栄の頭を撫でた。4人の中で、栄が一番身長が低く、ただでさえどっしりした体型の大治と比べるとふた周りくらい小さかった。
「ミツヤ……って呼んだら紛らわしいから、これからヨータローやな」
蟹江がオレを見て言った。
高校でも、ダブルミツヤとかミツヤーズとか、セット扱いされるようになった。
「ダブルミツヤ!」
「ミツヤーズ!」
蟹江と大治は休み時間や、部活の無い日の帰る前に、よくオレを呼びに来た。そのついでに栄も呼ばれるようになっていた。
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