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それはたしか5月頃で、昼休みにめずらしく栄が教室に居たから、一緒に屋上に上がって、4人で昼メシを食べていた。
サッカー部3人に囲まれて、栄はなぜ自分が呼ばれているのか分からないような様子だった。だから、放送部の話を色々聞いていた。
「昼休みの放送、だいたい栄の声やもんな」
「人数少ないねんもん……サッカー部と違って」
サッカー部は何十人といて、厳しい練習に耐えて残って、試合に出るには更にその中から選ばれる必要があった。
少し寂しそうな栄に、羨ましいのかと思って
「栄もサッカー部、入る?」
そう訊ねると、
「いや、もっと人数減るっちゅーねん」
いつもの大人しい感じとは違う、勢いのある口調で返されてしまった。
3人ともサッカー部なので、普段ふれあう事のない放送部の内情もめずらしくて、さらに色々聞いた。
「発声練習くらいはするけど、決まった文章読み上げるだけやし。好きな曲かけれるし、楽やと思う」
「曲も栄が選んでんの?」
「毎日ちゃうで。少ない人数でローテーションしてる」
基本的に栄は質問に対して答えるだけで、自分からはあんまりアレコレ話さないタイプだった。
中学の同級生に聞いたけど、と蟹江が眼鏡を押し上げる。
「放送部にもコンテストあるって聞いたで」
それを聞いて、何にも想像がつかなかったオレが、
「えっ? 何を競うん? 読み上げの速さ?」
と聞くと蟹江は栄のほうを見て、
「何かドラマ作ったりしてるんちゃうの?」
と質問を流した。けれど栄は首を横に振って、
「やる気ある所はやってはるんやろうなぁ。うちの学校にはカメラもないから……」
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