兄貴のほほ笑み

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兄貴のほほ笑み

 朝の弱い兄貴が珍しくご機嫌な様子でご飯を食べていた。隣でそれを不思議に思いながら味噌汁をすする。 「母さん、今日遅くなるから」 「部活?」 「部活のあとに、テスト対策の勉強することになっててさ。帰ったらちゃんと飯食うから」 「来年受験だものね。しっかり勉強教えてもらいなさい」 「俺が教えるんだって。酷いなぁ」  ほほえましいとも言える義理の母親と義兄のやり取りを耳にしつつ、目の前にいる実父に視線を飛ばした。たぶんこれから僕に、なにかしら嫌な話題を投げつけるであろう。 「辰之、おまえ勉強は――」  ほらね、予想どおりだ。 「ちゃんとやってるし、わからないところは兄貴に聞いてる」 「父さん、辰之の成績は俺の一年のときよりも上なんだよ。だから逆に俺が教わるときもあってね。それから」  話をうまく広げる優秀な義兄に、こっそりため息をついた。自分のダメさ加減を思い知らされる。  僕たちがはじめて出逢ったのは、両親が再婚することになった小学五年生のとき。ひとつ上の兄貴は小学六年生とは思えないほど落ち着いていて、すごく大人っぽい少年だった。  年齢はひとつしか違わないのに、身長差はこの時点で15センチ近くあったし、見た目も中身も申し分ない兄貴を見ているだけで、自分がひどく子供じみて見えた。 『弟ができて嬉しいよ。これからよろしく』  そう言いながら笑いかけられたそのときに、なんとも言えない気持ちが胸の中に渦巻いた。そのモヤモヤをなんとかしたくて、両親や兄貴に反抗したりと、いろいろ手を焼かせた過去は、僕の黒歴史になってる。 「辰之、勉強大丈夫だよな?」  ご飯を咀嚼中に兄貴に話しかけられたが、いかんせんすぐには答えられない。もぐもぐ口を動かしながら、大きく頷いてみせる。 「塾にも行かずに上位の成績をキープしてる辰之のほうが、俺よりも優秀だよ。父さん」 「おまえは部活に塾に忙しいだろ。辰之は帰宅部でなにもしていない身なんだし、成績がいいのは当たり前だ」  僕は慌てて味噌汁をすすり、一気に朝ごはんを食べ終えた。逃げるように食器を手にしてキッチンに向かって、実父からの口撃を回避する。  なにかあるとすぐに兄貴と比較するクセ、本当にやめてほしい!
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