兄貴の絶望

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「彼女のすごい情報ってなんだよ。スリーサイズなんて話だったら、今さら聞いても驚かないからな」 「兄貴は彼女の躰に直接触って、体感してるもんね」  両手で空中を揉みしだくジェスチャーをすると、顔を背けながら持っていたマグカップを机に置いた。 「謝ったんだから、いつまでもそれをネタにするなよ」 「彼女、兄貴と中学生を二股かけてる」  おふざけから一転、僕が事実を率直に言った途端に、兄貴の表情は瞬く間に曇った。 「辰之、やめろよ。笑えない冗談言うなって」  突っかかる口調で反論した兄貴の声色から、認めたくない気持ちが伝わってきた。  僕は黙ったまま、ポケットに忍ばせていたスマホで盗聴器の音声を流す。仲のいい女子の甲高い声をまじえたやり取りを聞いていくうちに、兄貴は顔を青ざめさせ、右手で口元を押さえた。 「梨々花がこんなことを言うなんて……。嘘だ」 「兄貴と同じバレー部にいる箱崎の彼女からも、この話を聞いてる。僕は裏をとっただけなんだよ。これが彼女の本当の姿ってこと」 「裏をとったって、どうやって……」  兄貴の疑問に答えるべく、スマホの電源を切り音声をオフにしてから、意を決して口を開く。 「教室では男子の目があるから、女子はこういう話をしないものだろ。男子の目が絶対に行き届かないところと言えば、どこだと思う?」 「……女子更衣室とかトイレくらいだと。おまえまさか!」 「僕は真実が知りたかった。兄貴が深入りして傷つく前に、なんとかしたかった」 「俺のためだからって、いくらなんでもこれはやりすぎだ。なんて馬鹿なことを」  ショックで躰をぐらつかせた兄貴は、そのままベッドの上に腰を下ろす。重みの伝わったベッドから、軋む音が耳に聞こえた。早く兄貴をベッドに組み敷いてギシギシ鳴らしたいと、どうしても気持ちが急いてしまう。 「僕は馬鹿なことをしたとは思わない。兄貴が好きだからやっただけ……」  兄貴の目には演技じみて見えるかもしれないけれど、胸に手を当てながら想いを告げた。溢れんばかりの気持ちをもっと伝えたいのに、それ以上の言葉が出てこなくて、シリ切れトンボになってしまう。 「辰之?」  告げられたセリフの意味がわからなかった兄貴は、冴えない表情をそのままに目を見開く。
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