兄貴の絶望

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「宏斗兄さんが好きなんだ!」  僕は迷うことなく両腕を使って、兄貴の上半身にしがみついた。重なったところから伝わるぬくもりに、ゼロ距離なのを意識する。 (告白されることに慣れている兄貴は、どんな気持ちで僕の告白を聞いただろうか。ただの兄弟愛と思っているから、僕の抱擁に抵抗しないとか?) 「辰之ありがとう、俺のことを大切に思ってくれて」  抱きつく僕の背中を優しく撫でる兄貴の耳元に、そっと顔を寄せた。 「兄貴は僕のこと、どう思ってるの?」  答えはわかっているのに、訊ねずにはいられない。目を閉じて兄貴の返事を待つ。 「そんなの好きに決まってるじゃないか。俺を大切に思って、やってしまった行動はいただけないけど、それでも嬉しいよ」 「兄貴、違うんだ」  僕は閉じていた目を開けるなり、自分の全体重を兄貴にかけて強引に押し倒した。スプリングで弾んだ躰を逃がさないようにすべく、ベッドに押さえつける。兄貴の下半身にカタチを変えた僕のモノが当たってるせいで、告げた言葉の意味が嫌というくらいに理解できただろう。 「辰之、なんでおまえ…こんなこ、と」 「言ったろ、好きだって。この世の誰よりも兄貴を愛してる」  愕然とした表情で固まる兄貴の唇に、ドキドキしながら触れるだけのキスをした。 「んうっ!」  顔を左右に振りながら僕からのキスを逃れた兄貴の両手を、隠し持っていた長い紐で素早く縛りあげ、ベッドの上部にある支柱にキツく拘束した。 「おまえ、俺になにか飲ませたな。くっ、力が入らない……」 「部活をやってる兄貴に、体力が劣る僕が勝てるわけないしね」 「このまま俺を抱くのか?」  それでも抵抗しようと両腕に力を込めつつ、訝しげに細められた兄貴の瞳が、長い前髪の隙間から見え隠れする。どことなく色っぽく見える双眼に、ずっと見つめられたいと思ってしまった。 「抱かないよ。僕は兄貴の童貞を奪うために、こういうことをしたんだ」 「なっ!?」  僕のセリフを聞いた兄貴の口が、ぽかんと開けっ放しになる。イケメンを崩すような仕草をされると子どもじみて見えるため、可愛らしくてめちゃくちゃにしたくなる。
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