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弟とはこれまで、喧嘩らしいケンカをしたことがない。一人っ子だった俺に突如としてできた弟だったからこそ、仲良くしなければという気持ちがあって、いろいろ我慢しているのも事実だった。
我慢しつつも、俺の考えつかないワガママを振りかざす弟を可愛いと思いながら、いつも目をつぶった。だが今回ばかり、そうはいかない。恋愛感情をなくすためにも、徹底的に嫌われなくては――。
「兄貴、荷物を持ってきたよ。あれ、保健の先生いないんだ?」
保健室の仕切りから顔をのぞかせた弟は、疑問を口にしながらベッドに横たわる俺を見やる。
「ああ、誰もいない。悪いが着替えを手伝ってくれ。微妙にふらつくんだ」
ゆっくり起き上がる俺に弟は慌てて手を添え、心配そうなまなざしを向けた。
「体育館の床に頭を打ちつけたせいで、ふらつくのかな?」
「いや、ちゃんと受身をとったから頭は打ってない。顔面でバレーボールをキャッチした、ショックからきてるのかも」
すんなりとジャージの上を脱いだ俺は、意味ありげな上目遣いで弟の顔をじっと見つめた。
「兄貴……」
「なぁ辰之、しゃぶれよ」
「えっ?」
脱いだジャージを、弟の手に押しつけた。
「おまえとヤってから、オナニーしてなくてさ。溜まってるんだ」
言ったことが信じられなかったのか、弟は俺の視線を振り切るようにしゃがんで、ジャージを鞄にしまい込む。
「ぁ、兄貴なに言ってんだよ。ここは学校なんだし、そんなことしちゃダメだって」
所々震える弟の口調で、かなり動揺していることがわかった。
「言っただろ、溜まってるって。それに鍵をかければ、誰も入れないだろ」
(変な喘ぎ声が外に漏れたら、もれなく職員室に通報されて、鍵を持った教師が、わんさか乗り込んで来るかもしれないけどな)
「でも……」
「俺を好きなら、とっとと言うこときけよ! 早くしろ!!」
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