弟の悦び

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***  弟とはこれまで、喧嘩らしいケンカをしたことがない。一人っ子だった俺に突如としてできた弟だったからこそ、仲良くしなければという気持ちがあって、いろいろ我慢しているのも事実だった。  我慢しつつも、俺の考えつかないワガママを振りかざす弟を可愛いと思いながら、いつも目をつぶった。だが今回ばかり、そうはいかない。恋愛感情をなくすためにも、徹底的に嫌われなくては――。 「兄貴、荷物を持ってきたよ。あれ、保健の先生いないんだ?」  保健室の仕切りから顔をのぞかせた弟は、疑問を口にしながらベッドに横たわる俺を見やる。 「ああ、誰もいない。悪いが着替えを手伝ってくれ。微妙にふらつくんだ」  ゆっくり起き上がる俺に弟は慌てて手を添え、心配そうなまなざしを向けた。 「体育館の床に頭を打ちつけたせいで、ふらつくのかな?」 「いや、ちゃんと受身をとったから頭は打ってない。顔面でバレーボールをキャッチした、ショックからきてるのかも」  すんなりとジャージの上を脱いだ俺は、意味ありげな上目遣いで弟の顔をじっと見つめた。 「兄貴……」 「なぁ辰之、しゃぶれよ」 「えっ?」  脱いだジャージを、弟の手に押しつけた。 「おまえとヤってから、オナニーしてなくてさ。溜まってるんだ」  言ったことが信じられなかったのか、弟は俺の視線を振り切るようにしゃがんで、ジャージを鞄にしまい込む。 「ぁ、兄貴なに言ってんだよ。ここは学校なんだし、そんなことしちゃダメだって」  所々震える弟の口調で、かなり動揺していることがわかった。 「言っただろ、溜まってるって。それに鍵をかければ、誰も入れないだろ」 (変な喘ぎ声が外に漏れたら、もれなく職員室に通報されて、鍵を持った教師が、わんさか乗り込んで来るかもしれないけどな) 「でも……」 「俺を好きなら、とっとと言うこときけよ! 早くしろ!!」
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