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知人を選別した結果、バレー部の先輩をチョイスすることにした。一番の要因はバイセクシャルのだというのと、性格が単純で操りやすいからだった。
先輩が現役のころは同じアタッカーということで、レギュラー争いをしている関係上、あまり仲は良くなかったが、引退してからは程よい距離感で接していた。
保健室を出たあと家に帰ってからLINEで連絡し、次の日の昼休みに屋上で顔を会わせる約束をした。目に映る抜けるような青空を前にして、心が重く沈みこむ。
これから先輩に頼むことは、弟から逃げるための手段にすぎない。それが成功するかはわからないが、自分の手を汚すことなく他人にまかせることに、どうしても良心がチクチク痛んだ。
「黒瀬~っ、元気そうだな。あーあ、腹が立つくらいに天気がいい」
「若林先輩も元気そうですね」
「あまり元気じゃねぇよ。模試が終わったら学校の試験、それが終わったらまた模試の連続だし、その結果を見て気分が落ち込むからさ。元気でもストレスたまりまくり」
隣に並んだ先輩は、うんざりした表情で俺の顔を見つめる。背の高さが同じくらいなので直視される視線にちょっとだけ慄き、顎を引きながら口を開く。
「そのストレスを発散するコトを提供しようと思って、ここに呼び出しました」
先輩の瞳に映った俺の顔は、見るからに意地の悪い面持ちだった。
「おまえからそんな話が出てくるとか意外。そういうの嫌いそうなのに」
普段は見せない顔をしていたので、先輩はそこからなにかを察したらしく、親しげに肩をぶつけながら指摘した。
「ちょっと困ったことがあって。若林先輩の手を借りたいなと」
「え~っ、受験生に汚れ仕事を頼むのかよ」
「汚れ仕事ですが、気持ちのいいコトですよ」
「なになに、おまえと別れた彼女をヤれってこと?」
耳元で囁かれた言葉に、黙ったまま首を横に振る。彼女と別れたのを知っていることに、どうにも驚きを隠せない。目を瞬かせながら、横目で先輩の顔を眺めた。
「黒瀬と言えばこのネタだと思ったのに、外してしまったか」
「よく知ってますね。受験生で忙しいはずなのに」
「いろんなことで暇つぶししなきゃ、学校ではやってけないだろ。それで本題はなんだ?」
くすくす笑いながら問いかけた先輩に、弟のことを語った。
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