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恋愛感情を振りかざしながら強引に迫られて困っている現状や、俺を諦めてほしいことを含めて丁寧に説明する。
「なるほどねぇ。それでバイである俺に頼んでみたというところか」
「はい、正直弟のことは持て余しています」
「ところでその弟くん、どんな感じなんだよ。クソ真面目を極めたお堅い感じでぽっちゃり系とかなら、俺でも無理だからな」
俺は制服のポケットからスマホを取り出し、弟の写真を画面に表示させてから先輩に見せた。
「……いいじゃん、タイプだ」
「そうですか」
「本当にいいのかよ。こんな可愛い弟を俺がヤっちゃって」
いやらしく瞳を細めて俺を見つめる先輩に、俺は気持ちをしっかり固めた。この話を第三者にした時点で、もうあとはない。
(勇気を出せ、これは辰之のため。兄である俺を諦めてもらって、違うヤツを好きになったほうが、アイツは幸せになるに決まってる。そうに違いない!)
「若林先輩、お願いします……。詳しいことはLINEで連絡しますが、今日の放課後は塾に行くとか、なにか用事はありますか?」
「確かに塾はあるけど、黒瀬の頼みを優先するに決まってるだろ。今から楽しみすぎて、ヤりたくてたまらない」
先輩は目の前にある金網に両手を差し込み、ガチャガチャ前後に揺らした。
「ありがとうございます。では今日の放課後、音楽室までご足労ください」
バレーボールを顔面でキャッチした昨日のことで、俺は大手を振って部活を休める。だからこそ、この機会を逃すつもりはない。少しでも早く決着をつけたかったのもあった。
「音楽室っておまえ。どんなに大声で叫んでも、声が漏れないところに弟を呼びだすとか、徹底してるじゃねぇか。好きにしちまうぞ」
「どうぞ、先輩におまかせにします。音楽室での流れをあとで送りますので、絶対に目を通してくださいね」
先輩に念を押して踵を返し、屋上をあとにした。
来たときよりも足が重いのは、どうしてだかわからない。好きだと言って傍若無人に迫る弟から逃げることができるはずなのに、気分が晴れないのは、どうしてなんだろう――。
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