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『辰之に大事な話があるから放課後音楽室に来てくれ』
端的な文章を打ち込み、スマホの電源を落とした。アイツからの返事を絶対に見ないためと、決心が揺らがないようにするために、カバンの奥底にスマホをしまった。
先輩との打ち合わせはもう済んでいるため、まったく支障はない。あとは放課後、音楽室に三人で顔を合わせることができれば、すべてカタがつく――。
(こんな酷いことをする俺を、辰之は嫌いになるだろうな……)
両手をぎゅっと握りしめながら音楽室の扉を開けると、すでに先輩が来ていた。窓際に立ったまま、顔だけでこちらに振り返る。
「三年の教室から、ダッシュでここに来ちまった。弟の辰之くんはまだみたいだな」
「そんなに待たずに来ると思いますよ。若林先輩が楽しみにしてるのはわかりますが、物陰に隠れてください。打ち合わせどおりにお願いします……」
「アクシデントがあったほうが、俺としては燃えるのによぉ。しょうがねぇな」
弟が音楽室に入ったときに、俺と二人きりだと思わせたかったこともあり、先輩には隠れてもらう手筈だった。
(アクシデントなんてあったら俺は動揺して、計画したことを無駄にしてしまうというのに。もしなにかあったら、若林先輩の柔軟性に助けてもらうことにするか)
「兄貴っ、いる?」
掛け声と同時に、弟が音楽室の扉を全開にした。息を切らしながら俺を見るその瞳は、不安を表すように揺らめいていた。
「兄貴、大事な話ってなに? わざわざこんなところに呼び出すなんて、おかしいよね?」
弟は警戒しているのか扉を開け放ったまま、歩幅一歩分しか入室しなかった。頭がいいと勘も鋭いらしい。俺との距離を縮めずに、そこに立ちつくす。
「こんなところに呼び出した時点で察しろよ。おまえは喘ぎ声が大きいから」
「!!」
目の前にある頬が一瞬で朱に染った。
「辰之、コレがほしいって強請ったよな?」
弟を確実に入室させるエサくらい、俺にだってわかる。問いかけながらスラックスの上から、なぞるように下半身に触れてみせた。すると動かなかった弟の足が、俺に向かって歩みを進める。ゆっくりと導かれるように――。
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