兄貴のほほ笑み

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***  昼休みが終わる直前になって、先にノートを貸していた箱崎が済まなそうな顔で僕の傍にやって来た。 「黒瀬、ノート助かったよ。今日は彼女と遊ぶ約束してたから」 「ということは、部活をサボる気だな?兄貴に言いつけてやろーっと」  ノートを受け取りながらふざけ半分で脅した途端に、箱崎は両手を合わせて拝むポーズをとる。 「頼むから黙っててくれって。今日は彼女の誕生日でさ、どうしても長く一緒にいてあげたくて」 「はいはい、惚気けるのはそれくらいでストップ。見逃してやるよ」 「ノートからなにからサンキューな。さすがは黒瀬先輩の弟!」 「褒めてもこれ以上なにもしないし。同じ彼女持ちでも、兄貴は部活をサボらないんだから偉いと思う」  あえて話題に兄貴を出してふたりを比べる発言をすると、箱崎は顎に手を当てて難しい表情を浮かべた。 「箱崎なんだよ、納得いかない顔してさ」 「黒瀬先輩、どうしてあの女子と付き合ったんだろうなと思って」  ノートを貸したときには聞けなかったことを口にしてくれたので、嬉しさをひた隠しつつ、声をひそめて訊ねてみる。 「なにかあるのか?」 「隣のクラスの女子だし、俺は接点がまったくないんだけど、俺の彼女がさ――」  5時限目の予鈴が鳴るまでの短い間だったが、箱崎からもたらされた情報によって、とても有意義な時間を過ごすことができた。  兄貴を堕とすための決定的な証拠を集めるだけで、楽しくてならない――。
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