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昼休みが終わる直前になって、先にノートを貸していた箱崎が済まなそうな顔で僕の傍にやって来た。
「黒瀬、ノート助かったよ。今日は彼女と遊ぶ約束してたから」
「ということは、部活をサボる気だな?兄貴に言いつけてやろーっと」
ノートを受け取りながらふざけ半分で脅した途端に、箱崎は両手を合わせて拝むポーズをとる。
「頼むから黙っててくれって。今日は彼女の誕生日でさ、どうしても長く一緒にいてあげたくて」
「はいはい、惚気けるのはそれくらいでストップ。見逃してやるよ」
「ノートからなにからサンキューな。さすがは黒瀬先輩の弟!」
「褒めてもこれ以上なにもしないし。同じ彼女持ちでも、兄貴は部活をサボらないんだから偉いと思う」
あえて話題に兄貴を出してふたりを比べる発言をすると、箱崎は顎に手を当てて難しい表情を浮かべた。
「箱崎なんだよ、納得いかない顔してさ」
「黒瀬先輩、どうしてあの女子と付き合ったんだろうなと思って」
ノートを貸したときには聞けなかったことを口にしてくれたので、嬉しさをひた隠しつつ、声をひそめて訊ねてみる。
「なにかあるのか?」
「隣のクラスの女子だし、俺は接点がまったくないんだけど、俺の彼女がさ――」
5時限目の予鈴が鳴るまでの短い間だったが、箱崎からもたらされた情報によって、とても有意義な時間を過ごすことができた。
兄貴を堕とすための決定的な証拠を集めるだけで、楽しくてならない――。
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