兄貴のほほ笑み

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 コンコンコン!  遠慮がちなノックが自室に響いた。 「辰之、ちょっといいか?」  扉一枚隔てた向こう側からかけられた兄貴の声に、苦笑するしかない。  上は制服のワイシャツに、すっぽんぽんの下半身は半勃ちでてらてらに濡れた状態。そして視線の先にある床は、白濁で汚れている。このまま扉を開けて兄貴を部屋に入れてしまうと、オナっていたのをバラすことになる。 (ズリねたが兄貴なんて、口が裂けても絶対に言えない――) 「辰之っ!」 「さっきのことなら、図書館で注意をして終わったし」 「謝りたいんだ……。あのタイミングで俺に注意したのは、きっと大変だったろ」  しょんぼりした兄貴の声に、なぜか僕の下半身がピクリと反応した。 「大変でもなかったけどね」 「辰之、怒ってるから開けてくれないんだろ?」 「今いいところだから、手が離せないんだって」 「やっぱり怒ってる……」 「怒ってないって、本当に手が離せないんだ。ご飯食べ終わったら兄貴の部屋に顔を出すから、それまで話は待っててほしい」  僕の部屋の隣にある兄貴の部屋は、この家の中で一番奥まった場所にあり、余程大きな声をあげない限り、他の家族に気付かれることはない。 「わかった、待ってる……」  名残惜しさを示すためか、扉を軽く殴ってから兄貴はどこかに立ち去る。僕の背中を押すその音が、兄弟の間柄を壊す音に聞こえたせいで、耳から離れなかったのだった。
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