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── 冬 ──
凍える夜空にオリオンがなかったら。
雪の訪れが幻想的でなかったら。
高鳴る胸のうるささも、波立って揺れる心の止めどなさも、あなたは知らなくて済んだかもしれない。
あの時の笑顔に一瞬の翳りを見つけなかったら…
知らないほうが良かっただろうか?
あの人に出会った意味を。
向かい風に目を凝らす。この先に春があるはずと。硬い桜の蕾、日陰に残る霜柱。猫柳の枝に忘れられた早贄は、渡しそびれた包みの居たたまれなさに似ている。
立ちすくむあなたを誰も責めはしない。春はまだ遠いのだから。あなたのタイミングで歩き出せばいい、この風が止んだなら。
昨日までの晴天に裏切られ、今日は雪までちらつく銀色の空。枯枝に残る葉が発つ鳥に手を振り、道行く人は先を急ぐ。
春になる直前が一番寒い。ゴール直前が一番疲れている。もう一日を生き抜いて、あと一歩力を振り絞って、苦しい今を過去にできたら。明日吹く風はきっと暖かい。
流れに混ざる雪解け水に川魚たちが気づく頃。花芽から芽鱗が剥がれ落ちたのを鳥たちが知る頃。大地の息吹が山を霞ませヒトがマフラーを緩める頃。
季節はいつ変わるのか。
春になったら。冬が去ったら。あなたの決意に今日の季節が意味を持つなら、あなたが今決めてしまえばいい。
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