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── 夏 ──
新緑が映す空の色。どこかへと向かう飛行機雲。朝が終わって昼になる前。大気は密かに夏を孕んで、春はそろそろサイズアウトだ。
グラデーションの世界で、ヒトだけが境界線を引きたがる。
心のありかは霧の向こう。あなたを分類する他人の都合は、無視するくらいがちょうどいい。
花曇りに押しやられてなお、軽やかに速く。ツバメは飛ぶ、海さえも越えて。晴れの日は底なしの青空に墜落して。渇けば田園の水面をかすめて。
彼らが気ままに見えるだろうか?
したいこと、すべきこと、しなければならないこと、そしていま、できること。有限の時をどう使おうか。
桜の実も筍の皮も、生い茂る夏が隠してしまった。飛行機が蝉時雨を割って遠ざかる。沈黙よりも確実に秘密を守る騒然、季節と生命の共犯。
こぼれた涙を気まぐれな雨が洗う。手向けた花が、朽ちる前に一匹の蟻を育てるだろう。顔を上げて。歩みは停めても、今はただ、前を向いて。
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