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── 秋 ──
群れを抜けて得た自由、引き換えの孤独。眠れない夜、朝までの遠さに悶える日。無為に吹く風の音におびえてもいい。立ちはだかる摂理に目を背けてもいい。
感じるから考える、恐れるから逃げられる。無理はしなくていい、臆病でない動物などいないのだから。
朽ちかけた枯葉の山に、木の根が耕した土の下に。リスたちは大事な木の実をあちらこちらに蓄えるけど、ありかはもう思い出せない。でもそのひと粒が芽吹いて育ち、いつかより多くの実を落とす。
「忘れる」は、別の形で受け取るスキルかもしれない。掘り起こす手を止めて、新しいのを探しにいこう。
冬から逃れるため、長距離を旅する蝶がいる。みずからの薄翅を頼みに、風に乗って南へ南へ。
道のりは決して楽ではないだろう。たどり着けない者もいるだろう。それでも飛ぶ、より希望のあるほうへ。
もし今あなたが寒さに震えているのなら、自分に問おう、とどまる理由は何かと。
柔らかな新芽の香りが鼻をくすぐる。雪解け水のせせらぎに耳を澄ませる。
日なたで背中をあたためながら、久しぶりの食事にありつく。
…春を夢見て熊は眠る。最低限いのちをつないで厳しい冬をやり過ごす。
強さを秘めたあなたでも、立ち向かうだけが手段じゃない。
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