流刑

2/2
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
 しばらくして頭痛が収まってきたので、オレはヨロヨロと立ち上がり、ドームのハッチに近寄った。  銀色の大きなハンドルに手を掛けると『ガチャリ』と重い音がしてロックが外れる感触がした……が。  オレはそこで手を止めてハンドルを戻す。今は『出ようと思えば出られる』のを確認出来れば良かった。  扉の外は『灼熱の大地』。日中の気温は軽く50℃を超える。空調システムが無いこのドームでそんな熱気を取り入れたら、あっと言う間に熱中症になっちまう。  窓の縁を観察するにこのドームの外壁にはそこそこの『厚み』があるから、断熱もそれなりにあると見ていいだろう。ならば、昼間は中にいた方がベターだ。  ……どうせ、逃げたところで生きて帰れる場所ではないのだろうし。  だが『だから』と言ってこのまま2週間を引きこもっている訳にも行くまい。ドームは気密が高いようだから、このままだと酸欠か二酸化炭素中毒が待っている。夜間になって適度に気温が下がった時点で換気をしないと。  ……2年前に軍を除隊して国へ戻った時、オレは愕然とした。  戦地では『祖国の平和と安寧を護るため』に、オレ達は文字通り命がけで戦ったんだ。仲間が死ぬ姿なんて何人見て来たか分からねぇし、その何倍も敵を殺してきたもんよ。  なのに、だ。  この国の内部で『平和と安寧を護るため』に活躍している筈の警官や司法どもは腐ってやがる!   ケチな強盗に拳銃をぶっ放す事にゃぁ熱心だが、マフィアが渡すワイロには簡単に転んで無視を決め込む。  デカい肩書を持つ政財界の大物なんざ、どんだけ悪事を働いても面倒を嫌って手を出そうとしやがらねぇ。  ……その陰で、どれだけ善良な市民が泣きを見ていても、だ!  オレは許せなかった。  国外に出て命がけで護った祖国が堕落するのを見過ごせなかった。『正義』が蹂躙されるのを黙ってはいられなかった。  だから、オレは『銃をとった』。そう、『愛する祖国を護るために』だ。  給料泥棒の警官どもや政治家にゴマをする検察官が手を出そうとしない『巨悪』に、正義の鉄槌を下すために!  突如現れた『ダークヒーロー』に、国中が湧いたね。  戦地で鳴らしたオレの手に掛かれば、接近戦(ショートキル)長距離射撃(ロングキル)もお手の物さ。何なら毒殺だってメニューにあるぜ?  悪人どもは震え上がり、慌てて用心棒(ゴリラ)を揃えたりしたが、それでもオレの快進撃は止まらなかった。  そう、あの頃のオレは誰にも止められなかったし、ネットでも『胸がすく』と絶賛されていたんだぜ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!