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流刑
「う……頭が痛てぇ……」
オレにとって『人生サイアクの日々』は、ガンガンと響く酷い頭痛とともに始まる事になった。
軍にいた時、戦地で『寝られない』と言うと軍医がキツめの睡眠薬を出してくれたものだが、そういう時は起床時間になると決まってこんな強い頭痛に襲われたっけ。……ああ、イヤな事を思い出したよ。
「そうか……『薬』だな」
オレは上半身を床から起こし、足を投げ出したまま『室内』を見渡した。
「……だよな。冷えた成形肉とは言え、夕食にステーキが出るなんて随分と豪盛だなと思ったんだ。ち……っ! あれが『最後の晩餐』ってヤツかよ」
オレの周囲は昨晩までいたはずの独房ではなくなっていた。恐らく『一服盛られて』眠っちまった後にこの『処刑ドーム』にブチ込まれ、ここまで運ばれたんだろう。……何時間眠っていたのかすら、全く分からないが。
『直径4メートルの半球型ドーム』。そして薄い囚人服に、僅かなクッキーと2リットルの水……。それがオレに与えられた全てだ。
『いつかは来るだろう』と思っていた日が『今日』だったって事だ。……クソッタレが!
前後左右の4箇所に付けられた小窓から外を覗く。
……辺り一面、何処を見ても荒涼とした砂漠が広がる。眼を凝らすが、何処にも人の気配はない。
ここで、オレは『神に試される』。……そういう刑罰なのだ。
『死刑制度を存続させるか否か』。
祖国では昔、それが激論になった。重大犯罪者の『人権』を何処まで認めるのか。賛成派と反対派が拮抗して相譲らず、その妥協策として生まれたのがこの『流刑』なのだ。
『死刑相当』の判決が確定した服役囚はある日突然、無通告でこうして人里から遠く離れた地に『置き去り』にされる。
ある者は砂漠に。ある者は極寒の極地に、またある者は大海原に……。
そして、僅かな水と食料だけで『2週間の孤独を耐え抜く』のだ。途中経過は関係ない。刑務官は2週間後に来てドームごと受刑者を回収するだけだ。……それが死体であろうとも。
餓死するかも知れないし、脱水症状での死もありうる。そうした極限の状況において生き残った者だけを『神に認められた』として刑務所に戻し、『無期懲役』に減刑するそうだ。
世間ではこれを『神のみぞ知る刑』と呼んでいる。まさに、誰が生き残るかは神様とやらだけが知っている事なんだろうよ。
……だがな。オレは生き残ってやる! 何としてもだ!
この世に『正義』をもたらした者が、こんな所で死んでたまるものか!
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