捕縛

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捕縛

 そんなある日。  SNSでオレを絶賛していた『信者』の一人が、『支援』を申し出てきたんだ。……つまり『金』だ。  正直、その時のオレは活動資金に困っていた。  派手な『粛清』にはそれなりのコストが掛かるからな。だから『オレの素性を探らない』という条件で逢う約束をした。  ……これが『失敗』だった。  現場に現れたのは『信者』なんかじゃぁなく、まるで砂糖に集る蟻みてーにゾロゾロ湧いて出てきた警官どもだったよ。  ぐるりを拳銃で囲われた時には、このまま討ち死にも覚悟したけどな。  でも、そン時の警官がこう言いやがったんだ。「君のしている事に、私は陰ながら賛同している」と。「裁判は陪審制だ。一般市民は皆、君の味方だから悪いようにはならない」……ってね。  まったく……オレは何て馬鹿なんだろうかね。『警官なんざ信用ならねぇ』って、よく知っていた筈なのによ。  ああ、弁護士も雇ったよ。一応な。  『オレの正義を主張しろ! 何としてでも無罪を勝ち取れ!』そう厳命したらヘンな医者を連れてきて『あーだ、こーだ』と色々聞かれたよ。  ……そしてオレに付けられたレッテルが『ダーティハリー症候群(シンドローム)』とかいう聞いた事のない病名だった。過剰な正義感を振り回して他人を傷つける一種の精神疾患なんだとさ。  だが、頼みの綱だったクソッタレな陪審員は、大金を払って手に入れた『その称号』に誰一人とて耳を貸さなかった。『所詮はただの人殺し』なんだとよ。  結果、オレに突きつけられたのは『死刑相当』という極刑判決だった。  時間が経ってきて、ドームの室温がジワジワと上がり始める。  ……早く、これに身体を慣らさないとな。 何、『暑い』のは問題ない。戦場の半分は砂漠だったんだし。暫くすれば順応出来るさ。  チラリと水のボトルに眼をやる。 ここではジャックダニエルゴールドみたいに貴重な液体ではあるが、2週間で2リットルだから1日あたり150cc……コップ1杯弱は飲む事が出来る。何とかなるだろう。  問題は……そう、食料だ。  ネズミの餌みてーに小さなクッキーが5枚だけ。これが尽きれば、もう食う物は何もない。  新兵の訓練では絶食も科目にあったが、アレはギブアップやリタイヤが認められる保護された環境での話だ。……ここに『そんなもの』はない。ダメなら死ぬだけだ。  じっと、その包装されたクッキーを見つめる。  どうにかこれで耐え凌がないと。安酒のアテに摘むのとは訳が違うんだ。
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