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そう言えば、数日前に『教誨師』とか言うフザけた野郎に呼び出されたっけ。
久しぶりの出房だったから、理由は何でもよかった。とにかく独房の壁以外の景色が見られればそれで。
教誨師は言ったよ。
「神に祈りを捧げろ」って。「罪を悔い、神に許しを乞え」と。「神のみぞ知る刑」を生き残るには、神のご加護とやらが必要なんだとさ。
だからオレは言ってやったんだ。
「ふざけるな」ってね。
「オレが何で、悪人どもを粛清して回ったのか分かってンのか? それはな、『神様』とやらが何もしないからだ!」……と。
だってそうだろ? 『因果応報』だとか『神様は見てらっしゃる』とか言うけどよ、実際はどうだってんだ?
どーでもいいようなツマンねー罪には目ざとく罰を与えるクセしやがって、巨悪に神が鉄槌を下した事がどれだけあると言うんだ!
『見てただけ』じゃねぇか! 神様とやらは!
それが、神様代行としてこの世の悪に鉄槌を下した人間にだけは『罪を与えるから許しを請え』って?
まったく笑えねぇ、トンだジョークだぜ!
太陽が地平線の向こうに姿を隠したのを確認して、オレはそっとハッチを押した。昼の間に吹き積もった砂を外に押し退けると、涼しい風がドームの中に吹き込んでくる。
砂漠には水分がないから、夜は急激に冷え込む。だから長時間開けっ放しには出来ない。
ザク……。
外に出て砂を踏みしめ、大きく伸びをする。
「……」
360度、全天に渡る眩い星空。これで隣にオンナでもいてくれりゃぁ最高にロマンチックなんだろうがよ。
残念ながら、ここには誰もいないのだ。
……静かだ。
時折吹く風の音だけが耳をくすぐる。
まぁ……ここいうのもタマにはいいかもな。ここなら、誰もオレを責めたりしないし。ちょっとばかし水と食料が少ない事を除けば、悪くない人生の休暇かも知れない。
身体が冷えてきたので、慌ててドームに戻ってハッチを閉める。
床に寝っ転がって丸い天井を見上げると、少し緊張が和らいだのか腹が空いているのを思い出した。
「少しだけ……食うか。2週間に分けて食えばいいから、1枚の1/3までは食えるからな……」
包装用のビニールを破り、貴重な1枚をそっと取り出す。
そして恐る恐るクッキーを手で割り、その欠片を口に放り込んだ。
「旨いな……きっと、高級店のクッキーに違いねぇ」
ポロポロと落ちる粉の一粒とて無駄には出来ない。細かく集めて指で舐める。
クッキーで口が乾いたので、ボトルの口を切って少しだけ水を口に含む。
1日150ccとは言え、我慢出来るうちは少しでも我慢した方がいいだろうし。
オレの『初日』はそうして幕を閉じた。
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