窮地

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 ドームで放置されてから4日目になった。    胃がキリキリと悲鳴を上げる。……分かってはいた事だが、空腹が辛い。  軍でも訓練はしたが、絶食は3日目や4日目辺りにピークが来るんだ。身体が猛烈にエネルギーを欲して精神を追い詰めてくる。  ……指が震えている。呼吸が荒い。背中が寒くなる感覚に襲われる。  はぁ……はぁ……。  心の中で必死に「落ち着け、落ち着け」と繰り返す。  ここを耐えきれば、とりあえず精神的な苦痛は緩和されるはずなのだ。軍の実地訓練でも5日目からは多少マシになった記憶があるし。  だが。  何なんだ、この『恐怖』は。  軍の訓練の時は、こんなに怖くなかったはずだ。もっと安心していられたはずだった。こんなに恐ろしくは無かった。  ……そうか。  やがて、ひとつの結論に辿り着く。  ここにはだ。  聴診器を当てるだけで何もしないヤブ医者もいなければ、激励と称して怒鳴りまくるだけの無能な軍曹(サージェント)も、泣き言を撒き散らす馬鹿な同僚もいやしない。  オレだけの、孤独な戦い。  誰の支援も無ければ、「今に見てろ」と牙を向ける相手もない。同じ境遇で苦しむ激励相手もいないのだ。  そう、今のオレには戦う仲間がいないのだ。この辛く厳しい試練の中で!  『ひとり』という環境が、こんなにも辛いものだとは……。  ダメだ、精神(こころ)が弱る。虚勢を張る相手がいないのが、こんなにも不安になるとは思ってもみなかった。  このままだと空腹が祟って精神がやられそうだ。  ちくしょぉ……ここで気がフレちまったら、例え生還しても何の意味もねぇじゃねぇか。チャンと……正気のままで戻らねぇと!  どう……する。  チラリと横目でクッキーを見つめる。  あと、4枚残っているんだ。……少しくらい先行して食べても、まだ大丈夫だろう。それよりも、今ここを乗り切らないと!  オレは襲いかかるかのようにして、クッキーの包装を破いた。  そして吸い込むようにして腹に収める。  く……っ! これで……これで、多少はマシの筈……!    だが、それは誤算だった。  『食べ物が来た』と理解した胃袋が事情も理解せずに『もっと食え』と催促してきたのだ。猛烈な衝動が全身を襲う。  仕方ねぇ……『もう一枚』、『もう一枚』だけだ!  かつて自分で出した事が無いほどの速度でクッキーの包装を破り、無我夢中でそれを頬張る。  ……そしてそのまま、オレは意識を失った。
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