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「消えたい」
雨が傘に打ち付ける音の中に交じった声。
透き通った、濁りのないその声が私は好きだ。
あたりには誰もおらず、私と彼女だけの空間に投げられた言葉は雨と同化した。
「そうね」
いつもならそのまま同化したものを見て終えるのだが、何故だろう。
今日の私の気分はその言葉を拾ってやりたくなった。
そう、彼女はいつも「消えたい」と言う。
その理由を一度聞いたことがある。
すると彼女は私の好きな声でこう言った。
「好きなお菓子を食べたいことに、あなたは理由があるの?」
そう言われてから、彼女が「消えたい」と言っても私は同化させていた。
彼女は私が返事をしたことに驚く様子を見せることなく、私の隣を歩き続けた。バス亭までは二キロあるがこの距離を億劫だと思ったことはない。毎日毎日、会話をすることはない。彼女の「消えたい」という一言だけ。それでも、億劫だと感じたことはない。
彼女はどうだろうか。私と同じなら良いのに。
「どうしてそう思うの?」
二度目の質問。
以前と同じように彼女は少し間を置いてから言った。
「どうしてだろう」
依然とは違う返答。
「分からないの?」
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