身代わりストラップ

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街中で見掛ける女の子たちはとても可愛らしいぬいぐるみのキーホルダーやストラップ、キラキラしたアイテムを鞄に付けて笑っている。 それに反して私は飾り気の無い鞄を引っ提げていた。 別にキーホルダーとかを持っていない訳では無い。むしろお土産やプレゼントで貰うことも多くて、両手に収まらないくらいには持っている。 でも使うこと無く机の引き出しに仕舞ってある。 使うのが勿体無いから。 もちろん、それもある。 けれど理由はそれだけじゃない。 なにより…… よく落とすからだ。 過去に何度か鞄に貰ったぬいぐるみタイプのキーホルダーを付けた事がある。 それらは数日でどこかへ居なくなってしまった。 その内の何体かはその場で落ちたことを指摘してもらって救うことも出来たけど、ストラップ部分が外れて中の綿が出てきた事でもう使うことは出来ない状態になっていたりと、基本二度と付ける事は出来ないものばかりだった。 一番最近落としたものは、反射板になっているストラップ。それは友達と日帰り旅行をした時に買ったものだった。 旅行先とはなんの関係もないものではあるものの、北欧展のような催しでその時だからこそ買えるものだった。 ストラップの形はダーラナホースという『幸せを運ぶ馬』と呼ばれるもの。 なんとなく惹かれてそれらを見ていた。 普段は買わないストラップだったけれど反射板という事もあって、仕事帰りに暗くなった時に車通りも多くて危ないからちょうど良いかもしれないと買うことにした。 それから落とさないよう、毎日気を付けて鞄に付けたそれを確認しながら仕事に行っていた。 時々行き帰りで職場の人に会うから気に掛ける事が出来ない日もあって、そんな日が続いていたある日の事。 お馬さんが見当たらない。 記憶を辿っても行き道のどこかで落としたとしか思えなかった。 珍しく長い間一緒にいてくれたストラップを失くしたのは、かなりショックだった。 帰り道絶対に見付けるんだと思いながら、1人で帰りたかったのだけれど職場の人と帰ることになってしまい、話を聞きながらも道路に落ちていないか横目で探る。 本当はよくないと分かっている。 ちゃんと話を聞かなきゃ。 でも、そんな心の余裕は正直無かった。 会社からすぐの道路を曲がるところにそれはあった。 今すぐにでも取りに行きたかったが、話を途中で放り出して取りに行く事は出来なかった。 暫くして別れると、急いでさっきの場所へ戻りストラップを拾った。 見付けた時にも何台か車が通り過ぎて行き、それを轢いて行った。 きっと落としてからだともっと多くの車が通って行ったんだろう……。 「ごめんね…。」 落としたのをすぐに気付けなかった事と、見付かった事と、車に轢かれるのを見過ごした事と… 色んな感情が混ざって涙が溢れた。 たかがストラップ。 きっと誰もがそう思うだろう。 けれど、その時の私には『たかがストラップ』だとは思えなかった。 何ヶ月もの間一緒にいて、私を守ってくれていたんだ。 そのストラップが落ちていたのは車道のど真ん中。 朝、その車道のど真ん中を歩いた記憶は無いけれど、ほとんど歩道と言えるような道が無い場所だから落とした後に引き摺られたりしてそこまで行ったのかもしれない。 それに朝、車が横を通って行った記憶がある。 ─もしかしたら、ダーラナホースのストラップは私の身代わりになったのかもしれない。 今までのキーホルダーやストラップだってそうだ。 落としたのは基本、動物など生き物の形を模したもの。 私が今まで落としたもの達は、私の身代わりになってくれていたのかもしれない。 私はそのダーラナホースのストラップを落として棄てざるを得なかった後、暫くして体調を崩した。 それまではストレスを感じていたものの、ちゃんと動いて日常生活を送れていたのだ。 ……にもかかわらず、落としてからはまるで反動のように立つことも出来なくなったくらいに体調を崩してしまった。 その辺りももしかしたら身代わりになってくれていたのだろうか…? それともただの偶然なのだろうか…? 確かめる術なんてものはどこにも無い。 それからまた私は鞄に何かをつけることは無かったし、この先もつけない気がする。 やっぱり勇気が無いから。 自分の身代わりになるかもしれないと分かっていながら、落とす可能性が高いと分かっていながらつける、そんな勇気…。 けど、今まで落としてしまった子達には 「ごめんね」 より 「ありがとう」 と言ってあげた方が良いのだろうな。 そう思わせてくれたあの子は、やっぱり身代わりストラップだったのかもしれない。
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