非日常

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非日常

あくる日、いつものようにアルノメテリは下界の天気を操作していた。 使者のカササギが運んできた天気周期表に目を通しながら、雨の種を撒く。 「まったく、最近は雨続きだなぁ…」 ここずっと雨が連続で続いていた。梅雨から脱出しきっていない空模様は心にまで影響する。 湿気を追い払うように手を仰いだ。 とんころかん。 不思議なノック音が静寂を震わせた。カラカラと戸が開く。 振り返れば、申し訳なさそうな顔のイルビニーシャがこちらを窺っていた。 「お、イルビニーシャ」 「あ、すみません。神事中に…」 いつもはキチリと纏められた髪が乱れている。それだけ急いでいたのか、庭の手入れをしていたのか。アルノメテリには知るよしもない。 イルビニーシャは文を胸の前で抱えていた。すべすべした上質感のある紙から見て、下級市民からの贈り物の添え文ではなさそうだった。イルビニーシャもそれを察して慌てて持ってきてくれたのだろうか。 「ああ。構わないよ。ありがとう、見せてくれる?」 アルノメテリは掴んでいた黒い粒を離して立ち上がった。イルビニーシャのスラリとした手から受取って、封を切る。 「どれどれ…?」 手紙を開きながら封筒の文字を確認した。表面は真っ白で、裏面には「織姫」の2文字だけ。こちらも側近のように急いでいたのか、姫の「臣」が崩れていた。 織姫…。 上界に二人しかいない中級市民。その一人である彼女が文を寄越すなど珍しいことだった。 「で、では、(わたくし)は家政に戻らせていただきます」 「ああ、ありがと」 いそいそと(くりや)に駆けていくイルビニーシャを見送って、封筒と同じく真っ白な便箋に記された可愛らしい文字を読み始めた。
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